「アメリカさえ良ければ問題はない」という考え方
アメリカのトランプ政権が国連に対し、7月6日付でWHO(世界保健機関)からの脱退を正式に通知した。既定の条件を満たせば、1年後の7月6日に脱退することになる。
まさか正式に通知するとは、思わなかった。驚いたというより、あきれた。開いた口がふさがらない。トランプ政権は4月に資金拠出の停止を表明し、5月29日には脱退の意向を示していたものの、正式な手続きについてはこれまで言及してこなかった。
トランプ大統領の思惑はこうだ。11月の大統領選をにらんで、支持層といわれる保守の白人労働者層の基盤をしっかりと固めておきたいのだ。トランプ氏を支持する人々は、移民に仕事を奪われ、生活が困窮している。世界の平和よりも自分たちの生活の向上に強い関心がある。
あえて言えば、彼らはアメリカさえ良ければ問題はないという考え方をする。そんな支持層の心のうちを見透かし、自国第一主義を唱え、世界の国々から中国寄りとみられているWHOからの脱退を表明したのだ。トランプ氏のやり方は典型的なポピュリズム(大衆迎合主義)である。
失策の責任をすべてWHOに負わせたい
ここで少し振り返ってみよう。トランプ氏がWHOを「中国寄りだ」と強く批判するようになったのは、アメリカでの新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になり、トランプ氏自身の政治責任を問う国民の声が多くなったからだ。
5月3日には「中国はひどい過ちを犯し、それを認めたくなかったのだ」とテレビで話し、18日には記者たちに向かって「WHOは中国の操り人形だ」とまで語っていた。
アメリカは現在、感染者数がおよそ337万人(うち感染死者数、約14万人)と世界最多で、国内では「トランプ政権の失策だ」との批判が強まっている。
WHOにとってアメリカは最大の資金拠出国で、CDC(疾病対策センター)の職員が常駐するなど密接な関係にある。トランプ氏はそうした事情を無視して、自らの失策の責任をすべてWHOに負わせようとしている。
確かにテドロス事務局長の中国びいきの姿勢や行動、発言などWHO側にも大きな問題はある。だが、トランプ氏は大統領選に勝ちさえすればいいと考えている。このほどトランプ氏を酷評する暴露本を書いたジョン・ボルトン前大統領補佐官は、米ABCニュースのインタビューに対し、「国家安全保障より自らの再選を優先し、機密情報のレクチャーに関心を示さず、国際問題と自らの決定の影響について無知だった」と語っている。