他人の思考を食べているか
欧米では、「教養があること」が、紳士の条件の1つとされてきたという。日本の経営者やマネジメント層も、欧米のエリートに負けない教養を身につけて、グローバルなビジネスシーンで、互角に渡り合えるようになりたいもの。とはいえ、そもそも“教養”とは一体何だろうか?
経営コンサルティングや企業投資で様々な企業経営に精通し、大手予備校である田中学習会の取締役もつとめている侍留啓介さんは、次のように説明する。
「国語辞典を引くと、教養とは専門以外の学問や知識を身につけること、広い知識を身につけることで人生や心を豊かにするもの、という定義がされています。ビジネスパーソンは、自分の仕事の分野には強いわけですが、これはローマ字の『I(アイ)』のような一本足の状態です。専門性をできれば2つ、そしてそれ以外にも幅広く知識を身につけている状態が、教養人ではないでしょうか。私の造語ですが、そうした人をT型人材ならぬ、『π(パイ)型人間』と呼んでいます。教養というと身構えてしまいますが、仕事と直接関わらない、趣味や嗜好の分野に詳しくてもいいでしょう」
現代文が専門の予備校講師で、教養に関する著書もある児玉克順さんも、こう話す。
「雑学以上、専門知識未満で、知性を高めるものが教養と考えています。例えば、現代文で小説や評論を読む場合でも、歴史や政治、文化、風俗といった、様々な分野にある程度詳しくないと、理解が深まりません」
「専門以外の知識」が、教養のキーワードの1つになりそうだ。ただし、単なる“知識”の集積=教養ではないらしい。「確かに、まず多くの知識を得ることが必要です。しかし、論理的な思考力も養わないと、教養は高まりません。知識だけでは解を導いたり、アイデアを生み出したりすることができないからです」(侍留さん)。
なぜ経営者に教養が必要か
では、教養は仕事上、どんなメリットをもたらすのか?
児玉さんは、「教養を身につけることは、いわば他人の思考を“食べる”ことなので、人間を深く知ることができるようになるでしょう。交渉や人間関係の構築で役立つはずです」との見方を示す。侍留さんは、「柔軟な発想ができない企業は、成長できません。教養があれば、視野が広く、枠にとらわれない発想ができるようになります。とりわけ、経営者に教養が必要な所以です」と述べる。