「変革を起こす」人がいっそう求められている
東京・大手町に新しくオープンした三菱地所の新本社屋は、各フロアのフラットなレイアウトやフリーアドレス制の導入など、働き方を選べる新時代のオフィスとして注目を集めている。だが、そこには失敗を恐れず、変革を求める人財を育成する狙いも込められているという。
──御社が求めている人財の素養について伺いたい。
三菱地所では、求める人財としての素養を5つ挙げている。「志のある人」「変革を起こす人」「組織で戦える人」「誠実・公正である人」「現場力・仕事力のある人」だ。
少し欲張りかもしれない。この5項目をレーダーチャートにしたとき、きれいな五角形を描く人も、そうはいないだろう。けれども、社員には常にこの5つを意識し、自身を磨いてほしいと思っている。
──求められる素養は、昔とは変わったのか。
不動産業界ではそんなに変わっていないと思っている。弊社の場合、約100年前に東京・丸の内界隈の土地を取得して、日本が世界に打って出るには、ちゃんとしたビジネス街をつくらねばという志を持って仕事を進めてきた。そうした30年、50年単位のプロジェクトが主業務であり、先に挙げた5つの素養が前々から重要視されてきたのは確かだ。
ただ、「変革を起こす」人が求められるという点は、以前よりも強くなっていると思う。今は何事においても、将来を見通すのが難しい。私が育ってきた高度経済成長期は、先進国に追いつけ追い越せで、欧米の成功モデルを手本にできた。しかし、VUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)時代などといわれる今日では、目標とするモデルを見出しにくい。むしろ、まったく無の状態から新しい何かを生み出す力を備えなくてはならなくなっている。
──その状況下で変革を起こすには、どうすればよいのか。
私は志を高く持つことと、他人に対して誠実・公正であるかどうかが重要になると考えている。
個々の社員の経験値、あるいは社内の資源だけでは、変革は起こしづらい。新たなものを生むには、社外も含めた多様な主体と連携してプロジェクトを進める必要が出てくる。
例えば不動産業をベースに、観光事業やエンターテインメント事業で世界へ打って出ようという大志を持ったとする。すると自分に、あるいは社内に足りないものが見えてくる。その不足を補うために社外に人財を求めるならば、他者に対して誠実かつ公正であるか否かが信用に関わる。先の5要素は、こうした具合に相互に結びついていく。