アートディレクター、クリエーティブディレクターとして仕事をしています。CM制作に限らず、ケータイなどプロダクトデザイン、企業、学校、病院といった組織のトータルなコミュニケーション戦略立案も私の仕事です。

仕事は依頼を受けて、クライアントの経営者や現場の責任者の方とじっくりと打ち合わせすることがほとんどです。独立する前の博報堂時代(2000年まで)は競合コンペをやることもありましたが、今はほとんどないです。もともと競合コンペはあまり好きではありませんし、僕のような仕事のスタイルの人間には向かない形式だと思います。僕はよく「問診」という言葉を使っているのですが、デザイン制作をする以前に、「相手が考えていることは何か」「どういった形のコミュニケーションを望んでいるか」といった本質を知りたいのです。僕の場合、「問診」をして、かなり深いところまで触れて初めてデザイン制作が可能になる。

<strong>佐藤可士和●アートディレクター</strong><br>
1965年、東京生まれ。博報堂を経て「SAMURAI」設立。スマップ、ユニクロソーホーNY店、国立新美術館、NTTドコモ「FOMA N703iD」等、CIから空間、プロダクトデザインまで幅広く手がけている。
佐藤可士和●アートディレクター 1965年、東京生まれ。博報堂を経て「SAMURAI」設立。スマップ、ユニクロソーホーNY店、国立新美術館、NTTドコモ「FOMA N703iD」等、CIから空間、プロダクトデザインまで幅広く手がけている。

競合コンペだとどうしても、オリエンテーションで渡される表面的なスペック情報だけでデザインを考えることになってしまいがちなので、アウトプットは条件だけをあてはめた当たり障りのないものになってしまいます。たとえば「新製品は何月何日に発売する、内容はこんなもの。じゃあ、パッケージとCMを考えてください」……。

そうしたオリエンテーションでは、スペックはわかります。けれど、どうして新製品を開発したのか、それを開発した人は何を考えていたのか、そういったことはつかめない。僕はスペックの背後にある本質部分が知りたいのです。

結局、クリエーターに対してオリエンテーションすることって、とても難しいことなんですよ。本質的で的確なオリエンテーションができれば、その時点で答えは半分以上、出ています。