実は柳井さんが事務所に来る前に僕は都内のユニクロ店舗をいくつか回って、商品を見たんです。でもねえ……。どれだけ見ても、これといった感想を思い浮かべることができなかった。

「柳井さんが来たら、何か気の利いたことを言わなきゃマズイなあ」と思いながらも、何も浮かんでこなかった。

それで、柳井さんが事務所にやってきて、挨拶を済ませたら、いきなり「最近のユニクロをどう思いますか」と……。

僕は素直にこう言いました。

「実はお目にかかるのに、何か感想を言わなきゃとユニクロの店を見て歩きました。でも、何も思いつかなかったんです。10年前はできたばかりの原宿の店へ行きました。5年前はフリースを買いました。でも、今回は何も思い浮かばないし、すごく買いたいものも特にありませんでした。きっと最近のユニクロはフォーカスがぼけているのではないでしょうか。以前ならばもっとユニクロについてしゃべることができたと思います」

感じたことをありのままに言ったら、柳井さんが「佐藤さん、その通りなんです。今のユニクロは……」と言いました。

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相手の発注力を引き出すのも僕の仕事

相手の発注力を引き出すのも僕の仕事

相手がトップであれ、担当者であれ、私が実行しているのは次の3つです。

仕事上の駆け引きはしません。僕の場合、相手から依頼されてコミュニケーション戦略を担当することがほとんどです。医者や弁護士の仕事に近い。そこに駆け引きが入り込む余地はないし、相手の本質を知るためには駆け引きをしている余裕はありません。また言いにくいことを言わなきゃいけない仕事ですから、相手をリスペクトすることが必要です。ビジネスを一緒にやるわけですから、基本的に尊敬しあっていないと、突っ込んだことを言うことができない。

そして、最後ですが、オープンマインドで接すること。相手にはやりたいことを全部、テーブルの上に載せてもらう。それを僕はコミュニケーションのプロとして、「今の時代だとこういう表現の方法が社会に対してインパクトがある」といった提言をします。相手のやりたいことを否定することはありません。相手の発注力を引き出すことも含めて僕の仕事なんです。

(野地秩嘉=構成 鷹尾 茂=撮影)
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