最初は見間違いかと思った。
「ただいまの燃費30キロ/リットル」
カーシェアリングで借り出したクルマの燃費インジケーターが驚くような数値を示したからだ。
1.3リットルのガソリンエンジンを搭載した、ごくふつうの小型車である。マツダ・デミオの最新車種「スカイアクティブG」という。
カタログ燃費にしろ、30キロ/リットル台の低燃費を誇るのはトヨタ・プリウス、ホンダ・フィット ハイブリッドなどのハイブリッド車のほかは、車体の軽い一部の軽自動車に限られる。この低燃費はただごとではない。
いまやプリウスを筆頭に、国内販売ランキングの上位をハイブリッド車が占める時代である。日本人の多くが「これからの主役はハイブリッド車、やがては電気自動車に移行する」と思い込んでいる。
そんななか、デミオ・スカイアクティブGは、わざわざ重たいバッテリーやモーターを積まなくても、エンジンの性能を上げればハイブリッドなみの低燃費を実現できる、というシンプルな事実を証明してしまったのだ。
スカイアクティブGの生みの親は、もしかすると、とんでもない皮肉屋の天才技術者ではなかろうか――。あかんべーをするアインシュタインの有名な肖像写真が脳裏をよぎった。
これは、会いにいかなければ。
さっそくマツダ広報に連絡し、次世代技術「スカイアクティブ」の牽引役・人見光夫氏が待つという広島本社へ飛ぶことにした。
航空工学科からエンジンの専門家へ
「僕なんかが話をさせてもらっていいんですか?」
本社2階の役員応接室に現れた人見光夫氏は、ざっくばらんなもの言いで私たちを笑わせた。
12年5月で58歳になった。岡山県に生まれ、県下随一の伝統校・岡山朝日高校から東京大学へ進学。東大のなかでも秀才が集う工学部航空工学科へ進んだのは、「飛行機を見るのが好きだったから」。