これでは「フィット」と呼ぶことはできない

「ただのハイブリッド車をつくるんじゃない。スモールカーであるフィットならではのハイブリッド車をつくる。その方向性をチームの全員に共有してもらうまでが大変でした」

ホンダ フィットハイブリッド

10年10月に発売されたフィットハイブリッドの開発秘話を語るとき、プロジェクトリーダーの人見康平はこの言葉を繰り返した。

ホンダのエンジニアにとって、主力車種・フィットの開発チームに加わることには格別の重みがある。2001年の初代以来、ガソリンタンクを前座席の下に置く方式で容積量を飛躍的に増やし、その年間販売数は国内2位の17万台(09年、軽を除く、自販連調べ)。07年のフルモデルチェンジの際は、栃木県芳賀町の四輪R&Dセンターにテニスコート2面分の大部屋が用意され、エンジニアたちがときに怒鳴り合いの議論を積み重ねながら開発を続けた。同社の屋台骨を支える車種のハイブリッド車――それは彼らにとって、フィットのボディにハイブリッド・システムを積めばいい、ということではあらゆる意味でなかった。

2008年の冬。エンジン・ミッションのリーダーである宍戸信彦は、インサイトのシステムを積んだ試作車を数メートル走らせ、すぐに落胆したと話す。

「確かにハイブリッド車なのですが、1300ccの小型車として、お客さんにどの点を推せばいいのかがわからなかった。乗っていて感動が全くなかったんです」

大きな問題点は2つあった。第一に走り出しの軽快さが足りない。実車性能を担当する太田孝弘、そして設計・コストの永峰晋吾も「小型車に求められるトルクの効いた動きが感じられない」と口をそろえた。また、燃費性能が30km/L未満であることも判明し、彼らの表情をさらに暗いものとした。ハイブリッド車専用に開発されたインサイトと異なり、フィットは使い勝手をより重視した車だ。ゆえにボディの空気抵抗が想像以上に悪かったのである。

「これではフィットと呼ぶことはできないし、ハイブリッドと言うこともできない」