士気を高めたカルロス・ゴーンの一言

日産自動車 
PV第一製品開発部第4プロジェクト統括グループ 車両開発主管(CVE) 
門田英稔 

1956年、東京都生まれ。横浜国立大学大学院修了。82年、入社。初代「セレナ」「ハイパーミニ」等を手がける。

2010年6月、日産リーフの開発責任者である門田英稔は、神奈川県厚木市にある日産テクニカルセンターにいる部下たちに対し、恒例となった「昼礼(ちゅうれい)(昼に実施する朝礼)」を行っていた。いつもと違うのは、門田が厚木にはおらず、欧州から電話で開発部隊に語りかけたことだ。

話の中身は、カルロス・ゴーンCEOが、リーフの実験車に試乗して、非常に満足しているというもの。この報を受けて、開発部隊の士気は一気に上がった。

周知のように「リーフ」は、10年12月に日産が発売した電気自動車(EV)だ。EVとしては、三菱自動車が09年に発売した「アイミーブ」もあるが、こちらはサイズが軽自動車。リーフは5人乗りの普通乗用車としては、世界初の量産車種である。一度の充電で、日本の測定基準では約200キロメートルの距離を走る。

EVはガソリンエンジンで走る従来の自動車と違い、バッテリーに充電された電気によって、モーターを回して走るため、走行中に二酸化炭素を排出しない。その点でリーフは、ハイブリッド車でトヨタ、ホンダの後塵を拝した日産が、環境分野で巻き返しを図るために放った戦略車である。

リーフはEVであるため、従来の自動車開発とは違った新しい技術を盛り込まなければならないうえ、非常に短期間で実現することを求められた。リーフの開発が決まったのが07年秋で、発売時期は10年中とされた。開発期間は3年。門田によれば「これだけ新しい要素を盛り込む開発にしては、通常より1~2年短かった」。

こうした厳しい条件のもとで、門田はどのようにしてリーダーシップを発揮し、リーフの開発を成功させたのだろうか。そのポイントは、組織づくり、プロジェクト運営の方法、そしてコミュニケーションの取り方の3つに集約できるだろう。