英経済紙フィナンシャル・タイムズが「日本にAIのスターが不足するなか、唯一輝く」と称した半導体企業がある。東京・芝浦に本社を置くキオクシアだ。株価はこの1年ほどで約11倍に急騰し、AIインフラ需要の高まりを背景に世界有数のパフォーマンスを見せている。かつて低迷し、IPO時も注目されなかった地味なフラッシュメモリメーカーが、AIブームの追い風を受けて存在感を急激に高めている――。
Toshiba TC58NVG0S3ETA00
Toshiba TC58NVG0S3ETA00(写真=Raimond Spekking/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

英紙が「日本のスター」と報道

東京・芝浦に本社を構える半導体メーカーのキオクシアに、海外メディアの熱い視線が注がれている。

英経済紙フィナンシャル・タイムズは1月22日、「日本にAIのスターが不足するなか、あるチップメーカーが輝いている」の見出しで取りあげた。記事は、同社株が過去12カ月で約800%上昇したと報道。日経新聞は1月27日、2024年12月に東証プライム市場に上場して以来、キオクシア株は“約11倍”に達したと報じた。最近では一時2万円を突破する場面も見られる。

AIブームが世界を席巻するなか、その恩恵を直接享受できる日本企業は意外に少ない。エヌビディアのような半導体メーカーも、OpenAIのようなAI企業も、世界的知名度のあるものはほとんどが海外企業だ。家電や自動車、ゲーム機器といった日本の“お家芸”分野と比べれば、AI分野で日本はまだ、世界的に十分な存在感を発揮できていない。

こうした状況の中、米ビジネス誌フォーチュンもキオクシアの伸びに注目。2025年の株価上昇率が、世界の主要企業で構成するMSCI世界指数のなかで首位に立ったと指摘している。

キオクシアの顧客リストにはアップルやマイクロソフトといったテック大手が並ぶ、とブルームバーグは報道。AIの賑わいから若干距離感のある日本において、異色の存在となっている。

今年の製造枠がもう売り切れた

その躍進を支えるのが、同社が設計・製造するフラッシュメモリだ。前身である東芝メモリは、1987年に世界で初めてNAND(ナンド)型フラッシュメモリを発明した技術のパイオニアだ。

最も身近なところでは、パソコンやスマホの記憶媒体(SSD)として使われる。作業中のファイルや撮影した写真を保存しておき、電源を切ったあとも明日また続きから再開できるのは、このフラッシュメモリが覚えていてくれるおかげだ。

キオクシアが得意とするのは、フラッシュメモリの主流2タイプのうち「NAND」と呼ばれるタイプだ。保存や読み出しの速度では先行するNOR(ノア)型に譲るが、その代わりに手頃な価格で大容量の製品を作りやすい。パソコンやスマホに内蔵されるほかにも、ゲーム機やカメラに挿して使うSDカードなど、大容量の記憶媒体で広く採用されている。

このNAND型フラッシュメモリに今、かつてない需要が押し寄せている。AIブームに乗り、AI各社のデータセンターから発注が殺到しているためだ。米テクノロジーニュースサイトのアーズ・テクニカは、同社メモリ部門を統括する中戸俊介常務取締役のコメントを掲載。説明によると、まだ2026年が始まったばかりの1月現在において、今年末までの生産分がすでに完売しているという。

同社は需要増に対応すべく、三重県四日市の工場で歩留まりの向上を図るとともに、岩手県北上の工場でも2026年中に本格量産を始める計画だ。