「公家」と「野武士」の強みを活かしきる

【三越 銀座店増床プロジェクト】 
売り場面積を1.5倍に広げた三越銀座店(東京都中央区)。各地の百貨店が苦戦を続けるなか、原点回帰で「銀座地区一番店」の奪還を狙う。

2010年9月11日。この日を境に銀座の人の流れが一変した、といったら大げさだろうか。地上を歩く人も、地下鉄構内の通行客も、銀座地区最大規模にリモデルされた百貨店・三越に吸い込まれていく。

以前の約1.5倍、3万6000平方メートルにスケールアップした銀座三越を訪れた客は10年9月だけで200万人を突破。10月に入り混雑は 一段落したが、それでも平日には約8万人、土日には約10万人の来店がある。9月末までの20日間で売り上げは前年比140%に達した。

なかでも、ふだん食品フロアで姿を見かけることが少ない男性の1人客をはじめ、3世代から成るファミリーや女子高生など、ありとあらゆる客層が集結している光景は圧巻だ。

リモデルにあたり、銀座三越は食品売り場を地下1~2階から、地下2~3階へと下ろした。売り場面積は10%増えたが、地下鉄の利用客が流入する機会は確実に減る。

執行役員 銀座店長 
安達辰彦

1975年、三越入社。銀座店の婦人服に配属となる。その後、営業企画本部店舗運営部長、新潟店長、百貨店事業本部店舗開発推進部長などを歴任。2008年3月より銀座店長を務める。

一般に、売り場は地下に潜るほど集客力が落ちる。だが、銀座三越は売り上げ構成比の3割を占める食品フロアを下ろした。この異例のレイアウトから見えてくるのは、伊勢丹との経営統合後、初の大プロジェクトにかける従業員たちの決意と覚悟だ。安達辰彦店長は言う。

「リモデルの目的は『新しい顧客の創造』です。この店は60代以上には強いが、30~40代が弱い。10年先、20年先を考えると、弱点だった客層を開拓する必要がある。食品のフロア変更はその一環です」

同店では、客の4割が地下1階から来店する。いわば「第二のエントランス」であり、ここが食品では若い女性を呼び込めない。そこで1階に婦人雑貨、地下1階に化粧品を展開。入り口を華やかにして、「ファッション強化」を印象づけた。

しかし、レイヤープランの決定に至るまで内部は紛糾を極めた。リモデル推進事務局リーダー・片桐英樹氏は当時をこう振り返る。

「雑貨部門は大賛成、食品部門は大反対でした。しかし、全体最適化を考えるとこの結論しかない。『経営陣が期待している以上の成果をあげて見返してやろう』と食品部門を鼓舞し、テナントさんとの交渉にも強気で臨めるように予算を手厚くしました。テナント誘致には妥協していません。成功の予感はありましたよ。今年7月、実際にフロアを見たときに、全体の見通しのよさから『これはいける』と確信しました」

片桐氏の読みは当たった。食品は目標の売り上げ前年比110%を上回り、150%で推移している。