しかし、どうあっても飛行機を設計したいというわけではなく、「実家に近い広島県の会社だから」という理由でマツダに入社。以来、一貫してガソリンエンジンの「先行開発」に携わってきた。
目先の技術ではなく、10年、20年先に実用化し会社の屋台骨を支えるような独自技術を切り開くことをミッションとする、開発畑のエリートである。
「社内では『天才』と呼ぶ人もいるほどです。とにかく優秀です。機関銃のように専門用語が飛び出してくることもあるので、びっくりなさらないでくださいね。それと、現場が好きなので、もしかすると着替えが間に合わなくて、作業着でやってくるかもしれませんがよろしいでしょうか?」
本人が現れる前、広島本社の広報担当者は、畏敬と親しみの念をこめて忠告してくれた。さすがに作業着姿ではなかったが、人見氏は独特のリズムで言葉を繰り出す痛快な人物だった。
周囲の話を総合すると、人見氏が突出して優れているのは、たとえば専門家集団が細部に打ち込みすぎて出口を見失ったようなとき、「俯瞰して問題点を見抜く力」であるようだ。
スカイアクティブとは、マツダが開発を急ぐ低燃費化技術の総称である。エンジンだけではなく車体や電気デバイス、さらには製造工程まですべてを見直すことで「全車平均燃費を2015年までに08年比30%向上させる」のが大目標だ。スカイアクティブGは、そのうちのガソリンエンジンを指している。
11年6月発売のデミオ・スカイアクティブGを皮切りに、スカイアクティブ技術による新型車は続々と市場に投入されている。12年2月には、低公害・低燃費型のディーゼルエンジン(スカイアクティブD)を搭載したSUVのCX-5が登場、販売目標の8倍を受注するロケットスタートぶりで世間を驚かせた。