「マニュアルを超えたその人だけへのサービス」を顧客に提供するには、どんな心構えが必要なのだろうか。「接客のカリスマ」と呼ばれる元ホテルマンが、長年の経験をもとに、感性を磨き顧客の心を捉える方法をお伝えする。
マニュアルを超えた「紙一重上のサービス」とは
お客さまに満足してもらうために最も大切なことは、お客さまを観察する「トンボの眼」と、お客さまの声を聞きとることができる「ダンボの耳」を養い、サービスマインドを磨くことである。
ホテルのベルマンは、玄関で誰よりも先にお客さまを目にする。その瞬間に「トンボの眼」で観察すれば、お客さまが重い荷物を持っていないか、足をひきずってはいないか、一番にお客さまの視覚情報を得ることができる。また、情報をキャッチする「ダンボの耳」を持つことで、何気ない一言を聞き漏らさずサービスに生かすことができる。
たとえば、客室係が廊下を歩いていたときに、お客さまが「いやぁ、昨日空調の効きがあまりよくなくてさ、寒かったな」と、ほかのお客さまと話していた会話が偶然聞こえてきた。そこですぐに「あ、空調が壊れたんじゃないかな」と思いチェックしてみると、確かに温度が上がり切っていなかった。ここできちんと直しておけば、翌日は正常な空調を提供することができる。
お客さまが直接自分に言ってきたことでなくても、お客さま同士の会話を聞き漏らさずにキャッチしたことで、空調の具合をすばやく直し、そのお客さまは快適に過ごすことができた。もしかしたら、そのままにしていても、お客さまは「たいしたことじゃないから」と思い、わざわざクレームとして言わなかったかもしれない。しかし、もし、会話を聞き漏らしていたら、翌日も空調は壊れたままで、結局お客さまは体調を崩してしまい、苦情となって跳ね返ってくるかもしれないのである。
私が30年間勤めたホテルオークラでは「紙一重上のサービス」を提供するべく取り組んでいる。それはちょっとした言葉遣いであったり、お客さまに提供する情報であったりする。それぞれのお客さまをよく観察して「今、この人が求めているものはこういうことかな」と情報を探りながら接客することで、お客さまの気持ちや状態を知り、満足していただける。