待たされていると感じる「30秒ルール」

「目は口ほどにモノをいう」ということわざもある通り、サービスではアイコンタクトも重要である。欧米人にとってアイコンタクトは幼い頃から身についている自然なものだが、島国で育ったシャイな日本人にはどうも苦手なものだ。しかし、アイコンタクトを取れるかどうかで、その人のサービスレベルは違ってくる。気になるのは、レストランで会計のときによく見る光景だ。お客さまが伝票とお金を出して従業員がレジを打ち、おつりとレシートを渡すまでの一連のやりとりのなかで、ひどい場合は一度も顔をあげず眼を見ない従業員がいる。口先では「ありがとうございました」と言っているのに眼は全然相手を見ていない。

私はレストランの従業員を対象に研修を行う際には「最低3回はアイコンタクトをしなさい」と話している。レジに来たとき、お金をお預かりしたとき、そして、おつりやレシートを渡すときである。また、お客さまを体全体で受け止め、お客さまに骨盤を平行に向け正対すると「なんとなく、この人は感じがいいな」とお客さまが感じるのはこうした微妙なしぐさや立ち位置がきちんとできている場合だ。

お客さまをしっかり見ていれば、お客さまのMeサインを見逃がすこともない。Meサインとは「私を見てちょうだい」というサインで、「自分を見てもらいたい」「こっちに気づいてほしい」という承認欲求の表れである。それに応えるまでのタイムリミットは30秒。それを過ぎると「待たされている」という感情が芽生えてしまう。待っていただいている30秒以内にアイコンタクトをしたり、「すぐにお伺いします」といった言葉を投げかけたりしておくべきである。「あなたの存在をわかっていますよ」と示すことができれば、お客さまはイライラすることはない。

Meサインをキャッチし対応することによって、満足を与えることができる。

「指先に眼をつける」ことも重要である。トイレやバスタブを掃除している人はいつも上から見下ろしているので、実際に使うときのお客さまの視点にはなりきれていない。つまり、自分が日頃行っている行動では、見える部分には限りがあり、見えない部分もあるということだ。お客さまがバスタブに浸かって目線が低くなると、ふだんは見えない汚れが見える。高いところにある額縁も、上にたまっている埃はよく見えないが、触ってみるとわかる。

これは接客業にも当てはまることで、いつも接客する側に立って見るのではなく、お客さまの視点に立って見ることが大切。立場を変えてみることで、まったく違う感じ方や考え方がわかるからだ。お客さまの立場になってみると自分の何が見えるだろうか。表情、身だしなみ、姿勢が見えるのではないだろうか。これはどんな人間関係にもあてはまることである。