組織マネジメントで生産性が激変する
企業にとって最も希少な経営資源とは何だろうか?
そう問われて真っ先に思い浮かべるのは「ヒト」「モノ」「カネ」だろう。
なかでも「カネ」すなわち資本・資金の確保とその最適な戦略配分が長きにわたって企業業績を左右していた。しかし今は「カネ余り」の時代であり、ゼロ金利下、資金の調達はもはや大きな差別化を生む要素ではなくなってきている。
翻って「ヒト」はどうか。日本では2010年から人口減少が始まり、労働力不足が深刻な課題となってきている。また、物事の変化のスピードがかつてないほどの速さになるなか、「イノベーション」を通じて「違いを生み出す」ことが企業の価値創出・成長には欠かせない。企業組織を構成する人材の「質」と「量」がいまや最も希少な資源であり「組織マネジメント」を通じた人材最適配置が企業業績に違いをもたらすのだ。
そんなことは当たり前だ、と思われるだろうか。しかし、その当たり前に気がついていない企業があまりにも多い。グローバル企業と日本企業を比較した場合、日本企業は組織マネジメントの拙さによる生産性の棄損がとくに顕著である。ベイン・アンド・カンパニーが開発した、組織生産力マネジメントの巧拙を指数化して測定する手法を通じてその実態を見てみよう。日本の調査対象は1000人以上の規模の企業とした。
平均的な日本企業では100のうち32を喪失
企業組織の初期状態、つまり、生産的な労働に所定の時間の100%を振り向けられる社員が平均的な割合で存在する場合の生産力を100とする。この基準となる100から不必要な会議や複雑な組織構造などに象徴される、いわゆる大企業病によって「時間(Time)」を浪費したことによる生産力損失分を差し引く。社員が本来発揮できたはずの生産性を押し下げるあらゆる要素がこの損失分だ。平均的な日本企業では大企業病のために生産力を32ポイントも失っている。この結果、指数は68に減少する。
次に、「人材(Talent)」の寄与、すなわち、人材構成、協業の仕方、チームづくり・人材配置の工夫によって組織が得られる利益(もしくは損失)を計算する。平均的な日本企業は、人材能力マネジメントで8ポイントを取り返し、指数は76になる。
最後に、「意欲(Energy)」のインパクトである。満足感のある社員、当事者意識のある社員、やる気溢れる社員の比率の大小が生産性に与える効果を計算する。平均的な日本企業は社員の意欲により16ポイントを獲得する。
5年間でグローバルは184、日本企業は66
さて、最終的な結果を見てもらいたい。日本の平均的な企業の組織生産力は92にとどまり、もともと組織の持っている生産力をマネジメントの拙さによって8ポイントも棄損させているのだ。
同様に調査・分析したグローバル企業の平均の組織生産力を見てみると、トータルで113と、日本企業の92と比べると、約20ポイント増しの生産力である。「時間(Time)」「人材(Talent)」「意欲(Energy)」(以後、TTEとする)の各要素で見てみると、日本企業はすべての要素でグローバル企業に惨敗の状況である。「時間」はグローバル平均に比べてマイナス11ポイント。「人材」のマネジメントによる回復分もグローバル平均より2ポイント低い。「意欲」による回復分はさらに8ポイント低くなっている。
仮に組織生産力を複利で計算した場合、5年間でグローバルは184、日本企業は66となり、その差は2.8倍へと増幅する。これではグローバルの企業競争では取り返しのつかない差を生むことになってしまう。きわめて深刻な事態であるといわざるをえない。