企業における「アクセル」と「ブレーキ」

メットライフ生命保険 代表執行役 会長 社長 最高経営責任者  サシン・N・シャー氏

ビジネスにおけるリスクは日常的に存在し、避けて通ることはできません。よって、私たちが求められているのは、リスクを理解し管理することで、お客さまやその他のステークホルダーにとって適切な形で常にビジネスを行うことです。

これは特に、信頼に基づく生命保険ビジネスでは重要なことです。信頼は、人と人の関わりから生まれるものですので、保険会社は強固なコンプライアンス文化と概念を持つことが必要です。日本で、私はよくコンプライアンスについて「車とのたとえ」を耳にします。これは、企業活動におけるリスクとコンプライアンスの管理方法のモデルとなっています。

この考え方では、営業活動は車の「アクセル」とされ、その唯一の責務は商品等の販売、売り上げです。コンプライアンス部門は「ブレーキ」とされ、リスクを監視し、間違いや不適切な販売の発生を防ぐことがその責務です。この分業により、理論的には、リスクの管理が可能となり、「車」を安全に目的地まで運転すること、つまりお客さまとの信頼を構築し会社の評判を高めることができるということです。

しかし実際には、この方法で車が運転されることはありません。アクセルやブレーキのみの操作では、車は事故を起こしてしまうか、目的地にはたどり着けないからです。優良なドライバーは両方のペダルを巧みに使い分け、交通ルールを熟知し、道路状況に常に注意を払っています。

ビジネス上のリスク管理にも同じことが当てはまります。メットライフには、日本国内に800万人以上のお客さまがおり、全世界では1億人以上にものぼります。コンプライアンスの規則は、交通規則と同様、当然のことながら広範に渡りますが、あらゆる不測の事態を網羅することができるわけではありせん。私たちは社員にお客さまからの信頼と会社の評判やブランドを守ること、リスクの検知と管理に注意を払い、最悪の事態を避ける行動をとる事を求めています。