誰かを連れていきたくなる場所

カペラシンガポールに、私の好きな場所があります。緑に囲まれたキャスケード型のプールがあり、その向こうに海が広がる、とても静かな空間です。ホテルには、景色を楽しめるバーとレストランがあり、そこで空の色が徐々にうつり変わっていくのを眺めるのは至福のひとときです。

この場所に、国際会議を主催し、無事終えた台湾人プロデューサーを案内し、テキーラで祝杯をあげたことも、長時間食事をとるのも忘れてバカラに熱中している日本人セレブを引っ張ってきて、タイガービールとナシゴレンで早い夕食をともにしたことも、忘れがたい思い出です。台湾人プロデューサーには疲労がにじみでていたし、セレブはバカラで負けていて苛立っていました。けれどもこの場所で一緒に時間を過ごすうちに、表情から疲労が消えていき、苛立ちが消えていくのです。ここに案内した人たちが、私に穏やかな笑顔を見せてくれたとき、私は本当に幸せな気持ちになります。

もうひとり、この場所に案内した人がいます。彼の話をするのは迷いましたが、ご紹介することにします。彼はシンガポール人のビジネスエリートで、私の仕事を助けてくれた恩人です。長い仕事の終わりに、私をねぎらう時間をつくってくれたので、モヒートを一緒に飲もうといって、ここに連れてきました。

会話をしていると、エアコンから水滴が一滴垂れてきました。彼は、「次にここに座ったお客さんに水滴がかかっちゃうといけないよね」と私に言って、それからスタッフを呼んで「エアコンから水滴が垂れてきましたよ」と優しく伝えていました。彼はそうした配慮を仕事の場面でも常に絶やさず、日本とシンガポールのビジネスの世界で信頼を得ていました。