なぜHISは急成長を遂げられたか
マーケティング論の中心概念は顧客志向だという。これを聞いて、皆さんはどのように感じるだろうか。
「わかっているのだが、なかなか実践できない」これが多くの実務家の実感ではないかと思う。顧客志向とは一筋縄ではいかない問題だからこそ、そのジレンマのメカニズムを踏まえた打ち手が必要となる。大手旅行代理店が競争優位を発揮する旅行業界。この業界に遅れて参入したHISは、なぜ大きな成長をとげることができたのだろうか。
かつての日本の旅行の主役は、国内・海外を問わず、団体旅行だった。そこで旅行会社に求められたのは、航空会社やホテル・旅館に対する価格交渉力もさることながら、大人数のツアーを成り立たせる座席数や部屋数を確実に確保する力だった。こうしたニーズへの対応を優先すれば、数に限りのある格安航空券の取り扱いには力が入らなくなる。大手の旅行会社は、売り上げも利幅も大きい団体向けの企画に注力し、HISをはじめとする新規参入者が、格安航空券の個人向け販売に取り組んだ(日本経済新聞社編『経営者が語る戦略教室』日経ビジネス人文庫)。HISが成長できたのは、ほどなくして個人旅行の市場が拡大したからだが、参入当初に、体力のある大手企業との熾烈な競争に陥らなかったことも大きい。
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