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顧客を「推奨者」「中立者」「批判者」に分ける

良き利益と悪しき利益とを識別するための質問とは、どのようなものだろうか。質問自体は単純なものだ。すなわち、「この会社を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか」というものである。そしてこの質問を基に得られる指標が「ネット・プロモーター・スコア推奨者の正味比率(NPS)」である。図1を参照してほしい。

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図1

NPSは、どんな企業の顧客も3つのカテゴリーに分類できるという基本認識に立脚している。すでに説明したとおり、「推奨者(プロモーター)」というのはロイヤルティの高い熱心な顧客で、自らが継続購入客であるのと同時に、友人に対しても顧客になるように薦める。「中立者(パッシブ)」というのは、満足はしているがそこまで熱狂的でない顧客で、競合他社からの働きかけになびきやすい。そして「批判者(デトラクター)」は、劣悪な関係を強いられた不満客である。先の質問に対する顧客の回答が、三者を分類する基準となる。たとえば、10点満点中、9点または10点と答えた顧客は推奨者であり、以下、中立者、批判者の順に点数が下がっていく。

完全に効率的に作動している「成長エンジン」ならば、顧客全員を推奨者に変えてしまう。考えうる最悪な「エンジン」は、顧客全員を批判者に変えてしまう。成長エンジンの効率性を測定する最良の方法は、顧客に占める推奨者の割合から批判者の割合を差し引いたもの、つまり企業のNPSは推奨者マイナス批判者となる。

このように、概念上は単純明快なものである。複雑なのは、ひとえに信頼性が高く行動に結び付くデータを、タイミングよく収集するための質問方法を習得することにある。そしてまた、なぜ顧客がそのように感じているのか、またどうやって推奨者を増やし、批判者を減らし、NPSの向上につなげていけるようなアクションをとっていくべきなのかについても、一筋縄ではいかないものがある。

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図1-1

この指標で測ると、各企業はどのくらいのNPSの水準になるのだろうか。スコアの範囲は業種によってかなり異なる(図表1-1)。しかし、各業界のリーダー企業は「成長エンジン」の効率性から見ると非常に際立った水準を示している。たとえば、アップル、アマゾン、コストコ、USAAのようなNPSの「スター企業」についていえば、NPSでその効率性を測ると、60~80%超の水準にある。言い換えれば、これらの企業でさえ改善の余地があるということだ。

一方、平均的な企業のNPSとなると一気に下がり、わずか10~20%しかない。言い換えれば、推奨者の数が、かろうじて批判者の数を上回る程度にすぎない。また、NPSがマイナスの企業も多く、業界全体でそろってマイナスの場合もある。そうした企業や業界は、来る日も来る日も推奨者よりも批判者が増えていることを意味する。この無残なスコアを見れば、なぜ多くの企業が、新しい取引の獲得を目指してどんなに積極投資をしても、利益ある継続的成長を実現できないのかがよくわかる。