人間にとって一番怖いものはなにか。それは人間かもしれない。ノンフィクションライターの小野一光さんは、有期懲役としては最長の懲役30年の刑が下った元小学校教師の取材を続けてきた。教師としてあるまじき犯行を重ねた男の素顔とは――。
柔らかな夕日が当たる黒板
写真=iStock.com/10max
※写真はイメージです

懲役30年の元小学校教諭が生徒に行ったおぞましい行為

2009年9月に広島地裁で行われた判決公判に出廷したのは、広島県の元公立小学校教諭・M被告(当時43)である。灰色の半そでシャツに灰色のズボンという姿の彼は、緊張しているのか、硬い表情を浮かべていた。

彼が罪に問われたのは、01年から06年にかけて、教え子である9歳から12歳までの小学生女児10人に対して行った、強姦46件、強姦未遂11件、強制わいせつ25件、児童福祉法違反13件について(後述するが控訴審で一部変更)。

判決言い渡しに際し、証言台へと呼ばれた同被告に向かって、裁判長は彼の犯行内容に触れ、「鬼畜にも劣る浅ましい蛮行」であると断罪して、主文を読み上げた。

「主文、被告人を懲役30年に処す」

その言葉を直立の姿勢で聞いていたMは、緊張した表情を変えぬまま、胸を小刻みに揺らしている。

結果として、この元教諭に下されたのは、有期刑としては上限の判決だった。

事件が発覚したのは04年のこと。

公立小学校を卒業した女子生徒が、在学中にMから体を触られていたことを、周囲に相談したことがきっかけとなる。関係者から通報を受けた広島県警は、08年5月にMを強制わいせつ容疑で逮捕。その後の捜査で、余罪が次から次へと出てきたのだ。