平均的企業では3分の2を超える顧客が、中立者か批判者

10年間に及ぶ研究を通して、ほとんどの業界で次のような事実が確認できた。すなわち、批判者に対する推奨者の比率が業界内で最も高い企業は、一般的に高い利益と健全な成長を享受している。直観に反すると考える向きがあるかもしれないが、突き詰めると、高い顧客ロイヤルティを誇る企業は、競合他社に比べてマーケティング費や新規顧客獲得コストを大幅に抑制できる場合が多い。また、既存顧客向けのサービスに集中し、新規顧客の獲得はきわめて選択的に実施しているが、これらはいずれも、一般的には成長を阻害するものと思われるかもしれない。しかしデータは嘘をつかないものだ。NPSリーダーは、競合企業の2倍以上のスピードで成長しているのである。先述したように、10年間を通して継続的に利益ある成長を遂げてきた企業は全体の9%ほど存在するが、そうした企業のNPSは平均して、同業他社のスコアの2.3倍だった。

企業経営者の大半は、成長のためにはもっと顧客志向になる必要があることを切実に感じている。株価を上げる材料として、また優秀な人材を集め、やる気を引き起こさせるためにもそうすることが必要だ。表現は千差万別だが、おそらく経営者のほとんどは、顧客中の推奨者を増やすことが死活問題だという認識を持っているはずである。ところが、責任を割り当て、進捗を測るための簡単で実用的な方法がない限り、企業をこの目標に向けて引っ張っていくことは難しい。それどころか多くの経営者は、自社がいかに悪しき利益に深くおぼれているかを認識していない。これまではインフレぎみの顧客満足度調査の点数のおかげで、経営者たちは自己満足に浸っていることができた。しかし、われわれの調査によれば、平均的企業では3分の2を超える顧客が、飽き飽きしている中立者か、怒っている批判者のいずれかであった。この嘆かわしい現実を見る限り、成長を金であがなう試みのほとんどは、株主資本を食いつぶすものでしかない。そうした試みは、宣伝や特売に金をつぎ込みながら、結局、不満客という有毒ガスをばらまいているも同然なのである。

悪しき利益は真の成長を損ない、実業界の評判を貶めてきた。しかし、変わるのにはまだ遅くない。すでに取り組み始めている企業もある。

※この記事は、プレジデント社2月新刊『ネット・プロモーター経営』(フレッド・ライクヘルド、ロブ・マーキー著、森光威文、大越一樹訳)からの抜粋です。

フレッド・ライクヘルド
ベイン・アンド・カンパニーのロイヤルティ・プラクティスの発起人。顧客ロイヤルティ改善を通した企業の業績向上を20年以上にわたって研究。米『コンサルティングマガジン』誌で世界で最も影響力のあるコンサルタント25名に選ばれた。ハーバード・ビジネス・スクール卒業。


ロブ・マーキー
ベイン・アンド・カンパニー ニューヨークオフィスのパートナー。同社の顧客戦略・マーケティングプラクティスを統括。顧客ロイヤルティ先進企業が参加するNPSロイヤルティ・フォーラムの創設者。ハーバード・ビジネス・スクール卒業。