アップル、GE、アメリカン・エキスプレス、P&G、ザッポスといった一流企業数千社がきわめて重視している顧客ロイヤリティ測定指標、それが「ネット・プロモーター・スコア(NPS)」である。「あなたがこの会社を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」というたった1つの質問から、顧客の本音を現場にフィードバックするシステムを構築することにより、サービスの低下をともなうコストダウンなどに頼らない増益が実現できる。NPSスコアが業界内で最も高い企業が他社に比べて2倍の速度で成長している事実をベイン・アンド・カンパニーの長年にわたる研究が明らかにした。

あなたの会社の顧客満足度調査は信用できるだろうか?

ほとんどの企業にとっては、ロイヤルティとは何かも定義できず、ましてや測定や管理などおぼつかないのが実情だ。顧客が離反しないのは、ロイヤルティのおかげなのか、それとも単なる無知や惰性のためなのか。それとも、本当はやめたいのに長期契約に縛られているからなのか。いずれにせよ、自社のファンとアンチ客の数について、経営者は実際にどうすれば把握できるのだろうか。また、良き利益と悪しき利益を区別するために、実務上どのような基準を使えばよいのだろうか。

結局のところ、顧客の反応を体系的にフィードバックする仕組みがなければ、「自分が他人からしてほしいと思うやり方で、他の人々に接しなさい」という黄金律も独善的かつ短絡的すぎて、意思決定の拠り所とはならない。たとえば、自分がしてほしいと思うやり方で相手に接していると自分では思っていても、相手はまったく違う意見を持っているかもしれない。企業でいえば、顧客の実際の評価はCクラスまたは落第なのに、顧客満足度調査の結果を見た経営陣が自社はAクラスであると誤解してしまうことが少なくない。企業経営者が正当に自己評価できる、実用的で信頼に足る指標、つまり公正な評価方式が求められているのである。

そのような指標、すなわち黄金律、ロイヤルティ、持続的な成長の間の三者を結ぶ「失われた連鎖(ミッシングリンク)」を探し求める旅は、長く困難な道のりとなった。

ベイン・アンド・カンパニーの同僚たちの協力を得て、私(フレッド・ライクヘルド)がロイヤルティと成長の関連性を研究し始めたのは、30年近くも昔のことである。まずわれわれは、顧客維持率を5%増やせば、25~100%の増益が期待できることをデータに基づいて明らかにした。その後、顧客ロイヤルティが最高水準の企業(「ロイヤルティ・リーダー」と、私たちは名付けている)の売上成長率は、一般に競合企業の2倍以上に達していることも示された。

もちろん、ロイヤルティと呼ぶに値するような顧客とのリレーション構築が、いかに優れた利益や成長をもたらすかを世に問い始めた当初は、誰もが「ロイヤルティ効果」のからくりに興味を示したわけではなかった。たとえば、エンロンやワールドコムのような企業の親玉たちは、顧客を正しく扱うことなどまるで気にかけなかったし、ウォール街の一部では近年、自己勘定売買を通じて大きな儲けを蓄えることに熱心な一方、顧客を無視し続けてきた。しかし、世の中の経営者の圧倒的多数は、「ロイヤルティ効果」の概念を受け入れた。つまり、セールスマンが正面玄関から顧客を呼び込むよりも早く、裏口から顧客が逃げていくような企業に成長が望めないことは、常識で考えても明らかなのである。

ただし、ここに難題が1つ隠されている。どの調査も、顧客ロイヤルティはほとんどのCEOたちの最優先事項の1つであることを示している。だが、そのCEOが率いる企業組織の中では、管理職の上から下にいたるまで、顧客がしばらく寄りつかなくなるようなひどい扱いを続けているのである。世間でいわれるほどCEOの権限が本当に強大なのだとしたら、なぜ顧客とのリレーションシップを大切にするよう、従業員たちに徹底できないのだろうか。

その理由は、従業員が利益を増やすことに責任を負わされていることにある。企業が測定するのは財務的成果である。財務的成果に基づいて、幹部の人事考課も決まる。問題は、良き利益と悪しき利益とを、会計上では識別できないことにある。たとえば、利益が1000万ドル増えたとしよう。だが、それは顧客に告げずに追加料金を導入したからなのか、それともロイヤルティの高い顧客の継続購入からもたらされたのか。あるいは、500万ドルのコスト削減があったとして、それはサービス水準を落として浮かせたものなのか、それとも顧客離反率を減らした効果なのか。このような疑問に、1つでも答えられる人がいるだろうか。誰にもわからないのだとしたら、誰が気にするだろうか。部課長が自分の評価につながる測定基準だけに注意を向けたとしても、それを責めることはできないだろう。

要するに、CEOがどう考えていようとも、主に財務会計のレンズを通して自社の成功を測定している企業では、ロイヤルティなど無用で、リレーションシップなどどうでもよく、顧客第一ではなく利益第一の顧客対応をすべしと判断しているのに等しいのだ。業績を測定する尺度が財務的指標だけであれば、幹部は利益だけしか見ようとしない。リレーションシップ構築の見返りとして得た利益だろうが、リレーションシップを悪用してかすめとった利益だろうがおかまいなしである。ところが皮肉なことに、顧客ロイヤルティには大きな財務面でのメリットがある。それは、企業が給料もコミッションも不要の大量のマーケティング・広報部隊を得たようなものだからだ。しかし、どの企業の損益計算書や貸借対照表を見ても、顧客中の推奨者(プロモーター)に関する記載はない。そのため、これら推奨者の重要性が見過ごされてしまうというわけだ。

ここにいたって、私のベインの同僚が、この難題について非常に重要な洞察を提供してくれた。ヨーロッパで開催されたロイヤルティをテーマとした会議での話である。プレゼンテーションが終わり、ロイヤルティに取り組む意欲に満ち溢れた経営者たちが部屋を出て行く姿を見つめながら、その同僚は首を横に振ってこう言った。「まったく残念なことだ。事業を発展させるには顧客ロイヤルティの改善が欠かせないことを、今のところは全員が理解している。でも、会社に戻って席に着くと、その業務を誰にも割り振れないことにすぐに気づくはずだ。残念ながら、ロイヤルティを測定し、その結果に対する責任を個人に負わせる仕組みがないのだから」

まさにそのとおりだ。「責任(アカウンタビリティ)」というのは、ビジネス界でよく使われる魔法の言葉である。個人に責任を負わせれば物事はうまくいくと、経験豊富な経営者なら異口同音に語るはずだ。もう1つ、「測定(メジャー)」というのも魔法の言葉だ。つまり、測定こそが責任を生み出すのだ。顧客リレーションシップを測定する基準となる信頼性の高い指標がなければ、顧客リレーションシップに対する責任を従業員に負わせることはできないし、そうなれば、従業員は顧客リレーションシップの重要性から目を背けてしまう。反対に、利益および利益に影響する諸要素については、日々、正確かつ厳密に評価するための基準がある。だからこそ、まったく同じ従業員でありながら(クビになってもよいと思う者は別として)、コストと売上高の両方または一方に対して、必ず個人的な責任意識を持っている。その結果、企業レベルでも個人レベルでも、利益の追求が中心課題となり、かたや顧客を正しく扱い、生活を豊かにし、顧客との良好なリレーションシップを築くことに対する責任は、忘却の彼方へ押しやられてしまう。