日本シリーズはいかに3敗するかが鍵
GL決戦第7戦は、雨で1日順延になり、11月7日に行われた。巨人先発は西本。第6戦でリリーフに失敗した西本を、藤田は大胆にも先発に起用したのである。ここらあたりが、ありったけの情を注ぐ藤田らしい采配だった。
西武先発は第1戦、第4戦に先発した松沼博久。広岡は7戦を俯瞰し、ピッチャーを長いイニング投げさせず、酷使を避けた。それが最終戦で生きた。
試合が動いたのは、3回表。一死後、8番・山倉和博(捕手)がレフトへソロホームランを放ち、1点先制。
5回表には、山倉がショートゴロエラーで出塁。9番・西本が一塁にバントし、一死二塁。1番・松本匡史(中堅手)は二塁ゴロに倒れたが、2番・河埜和正(遊撃手)のピッチャーゴロを、松沼がエラー。巨人が1点を追加し、2対0とリードした。
6回まで被安打3と完璧に抑えていた西本だったが、7回裏につかまる。先頭の3番・スティーブ【三塁手)にセンター前ヒット。4番・田淵幸一(一塁手)に四球を与え、無死一、二塁。5番・太田卓司(左翼手)のピッチャーゴロを内野安打にしてしまい、無死満塁。ここで、西本は6番・テリーに左中間を割られ、走者一掃の二塁打。西武に2対3とひっくり返されたのである。
西本がベンチに戻ると、藤田が声をかけた。
「ニシ、ご苦労だったな」
西本はこのシリーズで4試合に登板。26イニング、383球も投げていた。
わずか1点差だったが、巨人に余力は残っていなかった。7回からリリーフした東尾修に打線が沈黙。2対3で敗れ、凱歌は西武に挙がった。
広岡の胴上げを見守った藤田は、
「ヒロさんはユニホームを着た宮本武蔵だ」
と、最大級の賛辞を送った。
しかし、このときの教訓が、6年後に生かされることになる。
「日本シリーズはいかに3敗するかが鍵です」
近鉄との日本シリーズを前に、藤田が語った言葉であった。
910試合 516勝361敗33引き分け 勝率5割8分8厘
(文中敬称略)※毎週日曜更新。次回、仰木彬監督