売り上げ10分の1でも店は閉めない
そこから7年後、コロナ禍に。月の売り上げは通常の10分の1まで落ち込み、「きつかった」と振り返る。正博さんはこのときも店を開け続けた。
「ほとんどの店が閉めましたが、私は長年やっている従業員に『忙しい時だけ来てくれればいい』とは言いたくなかったんです」
技術を持つ職人の雇用を守りたい。その思いから、赤字が膨らんでも店を開け、給与を支払い続けた。石段街を上ってきたお客さんから「開いているのはお宅だけだった」と言われたこともある。
「『伊香保温泉を助けよう』と通ってくださる方もいた。そういう方を大事にしたいと思いました」
蓄えがあったため、すぐに倒産するということはなく、融資にも頼らず耐え抜いた。
「じっと我慢して、自力でV字回復しました」
職人が一人でも欠けると、生産量が大きく落ちる
だが勝月堂には、外部からの影響だけではない、常につきまとう危うさがある。人の手で作るがゆえの苦悩だ。「手作りなので、一人欠けるだけで生産ラインが大きく揺らぎます。また職人が未熟だと餡が飛び出して、売り物にならないこともあるんです」と正博さん。
とくに経験が長い職人はまんじゅう作りのスピードが速く、パートなどで労働力を補充したとしても、代替はできない。勝月堂で最も長い経験をもつのは正博さんの妻・美樹さん。30年選手のベテランだ。2024年に体調を崩し、まんじゅう作りが間に合わなくなってしまったことがある。
「忙しすぎて、心身がすり減ってしまったんでしょうね。一人欠けると、製造スピードが大幅に落ちて、本当にどうしようかと思いました」
勝月堂では「1日何個」というノルマはなく、その日できた分だけを売るスタイル。昔から変わらないやり方だが、お客さんの人数が増え、生産スピードが落ちたことで行列が長くなった。2025年の紅葉シーズンには、2時間並んだ客が売り切れで買えずに、怒り心頭という事態も勃発した。
「『この店のマネジメントはどうなっているんだ』とお客さんから殴りかかられそうになりました。列がさばけなくて、謝りっぱなしでした」と正博さんは振り返る。

