金融業界で実績をあげながら、NPO活動を通して社会に貢献する──。一見、水と油のように見える行動を同居させているのが、NPO「Living in Peace」代表理事の慎泰俊氏だ。投資ファンドでの仕事をする一方で、なぜ児童養護施設の支援や、カンボジアやベトナムで貧困層を対象とするマイクロファイナンス機関の支援を手がけるのか。田原氏が、いま注目の社会起業家の本音に迫る!
【田原】慎さんは学生のころは何をしようと思っていました?
【慎】じつは弁護士になりたかったんです。大学では人権運動をやっていて、アフガニスタン紛争やイラク戦争に反対するデモに参加していました。
【田原】人権運動に参加したのは、ご自分のことと関わりがあるのですか。
【慎】そうですね。私が高校生のころにようやく日本の大学が朝鮮学校の卒業生に門戸を開き始めるようになりましたが、その前まではダブルスクールといって、通信教育で別に高校を卒業しなければ大学を受験できませんでした。そうした不便さに対する経験が人権運動に興味を持ち始めたきっかけでした。
【田原】でも、学校を出て投資の仕事をしています。なぜ金融の仕事を?
【慎】大学のとき国際的なNGOでインターンをして痛感させられたことがあります。それは、世の中への発信力はお金やビジネスの発想の有無で左右されるということ。当時はネットも始まったばかりだったので、お金のない人が原理原則に沿った主張をしても、声を届けられるのはせいぜい1万人。一方、ビジネスの発想を持っている人が何か言うと、内容にかかわらず100万人、1000万人が聞いてくれる。もし自分が世の中を本気で変えようとするなら、ビジネスのことを理解しておく必要があるんじゃないかと。