金融業界で実績をあげながら、NPO活動を通して社会に貢献する──。一見、水と油のように見える行動を同居させているのが、NPO「Living in Peace」代表理事の慎泰俊氏だ。投資ファンドでの仕事をする一方で、なぜ児童養護施設の支援や、カンボジアやベトナムで貧困層を対象とするマイクロファイナンス機関の支援を手がけるのか。田原氏が、いま注目の社会起業家の本音に迫る!
児童養護施設を新しくつくり替える
【田原】慎さんのNPOはつくばの児童養護施設の支援をしています。これはどういうきっかけですか?
【慎】たまたま児童養護施設へ行って子どもたちと接したときに、将来、この子たちを待ち受けている現実は明るくないことを知ったことが始まりでした。
【田原】具体的にどういう問題が?
【慎】子どもが施設に来る前にかなりひどい虐待を受けて、心に傷を負っています。何かがうまくいって「これいけるぞ」と思えたような成功経験を持っていれば、その傷を超えていくこともできると思いますが、残念ながらいまの施設は職員さん1人あたり10人くらいの子どもを見ていて、とてもそこまでケアできる状況になっていません。
【田原】1人あたり10人は多いね。
【慎】実際に施設に住み込みをしてわかったのですが、施設の多くは寮のようなところで家庭的な場所ではないのです。そのような施設では、食事の献立も最初から決まっていて、親と一緒にスーパーに行って買い物をしながら考えるという経験ができません。そういった環境は、子どもたちが施設を出ていった後に家庭をつくって新しく生活するときに大きな障害になります。