0.05mmの小さな生き物、ミドリムシ──。動物と植物、両方の性質を持つ不思議な藻類に本気で人生を捧げている男がいる。東大発のバイオベンチャー、ユーグレナの出雲充社長だ。栄養不足に苦しむ世界の人々を救うだけでなく、石油の代替エネルギーとして飛行機を飛ばす燃料にもなるという。夢のような話は、本当に実現するのか。
【田原】ミドリムシは、食料問題やエネルギー問題を解決する切り札だそうですね。おもしろいけど、壮大すぎて僕には現実感がない。ミドリムシって、藻のようなものでしょ。それがどうやって地球を救うのか、説明してもらえますか。
【出雲】ミドリムシはワカメやコンブ、ヒジキの親戚の生き物で、他の植物と同じようにクロロフィルという緑色の葉緑素を持ち、光合成が可能です。普通、植物は歩いたり泳いだりしませんよね。ところがミドリムシは動きます。つまりミドリムシは植物でもあり、動物でもある。自動車でいえば、電気自動車とガソリン自動車が合体したハイブリッドカーみたいな生き物です。
【田原】おもしろい。でも、それが世界の食料危機を救うことにどうつながるのかがわからない。要するにミドリムシを食べるわけですよね。
【出雲】はい。クッキーに練り込んでもいいですし、パンに練り込んだり、カレーに振りかけてもいいです。
【田原】ふりかけじゃ、おなかいっぱいにならないでしょう。
【出雲】世界の人口が100億人まで増えても、お米や小麦など、みんながおなかいっぱいになるための炭水化物は十分につくれます。だからおなかいっぱいになる食料をつくる必要はありません。
【田原】かつてマルサスという人が『人口論』を書いて、人口がどんどん増えて食えなくなり、世界は破綻すると説きました。さらに1972年にローマクラブが『成長の限界』を発表して、いずれ食料が不足になり、やはり世界は破綻するといいました。もう、成長の限界はなくなったのですか。
【出雲】炭水化物についてはないです。内戦や大飢饉、異常気象で飢えが起きることはありますが、数百万人、数千万人の規模で、非常に例外的です。
【田原】だとすると、ますますわからない。飢餓がないなら、そもそも食料問題は起きないでしょう?
【出雲】いま地球が抱えている1番の課題は、栄養失調です。お米もパンもあるから飢えはしないけど、他の栄養のある食べ物がないんです。ビタミンがとれないから抗酸化物質が不足しているし、牛乳がないのでカルシウムもたりません。また鉄分が不足しているので貧血になるし、肉や魚がなくて筋肉をつくれず、腕や脚が細くなってしまう。栄養不足で苦しんでいる人は、いま世界で10億人いるとされています。それを救うのがミドリムシ。ミドリムシのなかには、人間が生活するために必要な59種類の栄養素が含まれています。魚のDHAも、牛乳のカルシウムも、肉のタンパク質も、ニンジンのベータカロテンもです。