0.05mmの小さな生き物、ミドリムシ──。動物と植物、両方の性質を持つ不思議な藻類に本気で人生を捧げている男がいる。東大発のバイオベンチャー、ユーグレナの出雲充社長だ。栄養不足に苦しむ世界の人々を救うだけでなく、石油の代替エネルギーとして飛行機を飛ばす燃料にもなるという。夢のような話は、本当に実現するのか。
ドラゴンボールの“仙豆”をつくりたい
【田原】出雲さんの原点を聞きたい。出雲さんはもともと理系ではなかったそうですね。大学も、入学したのは東大文科III類、つまり文学部だった。
【出雲】父親がサラリーマン、母親が専業主婦、住まいが多摩ニュータウンという家庭で育ったせいか、将来の職業はサラリーマンか公務員かの2種類の選択肢しかないと漠然と考えていました。ただ、多摩ニュータウンから出たことがないので海外への憧れも強く、公務員になるなら国連本部で働く国際公務員がいいなと。調べてみたら東大文科III類から国連に就職する人が多いことがわかって、そちらに進みました。
【田原】ところが入学後、農学部に転部しますね。どうしてですか。
【出雲】18歳のときにインターンでバングラデシュに行ました。そのときは私もさっきの田原さんと同じく、バングラデシュには食べるものがなく、みんなおなかがペコペコだと思い込んでいました。お土産でカロリーメイトを持っていったのですが、みんな朝昼晩おなかいっぱいカレーを食べている。カロリーメイトを配ったら、「みんなあなたのように乾パンをたくさん持ってくる。しかし、本当に必要な野菜やフルーツ、牛乳は持ってこない。あなたも国連と同じだ」といわれまして。たしかに現地の方のいうとおりで、私は実態を何も知らなかった。それでまず、栄養の勉強をしようと農学部に変更したのです。
【田原】栄養といえば医学とか保健体育のほうですよね。なぜ農学部?
【出雲】漫画『ドラゴンボール』に登場する“仙豆”という架空の食べ物をご存じですか。仙豆は1年に7粒だけ育つ貴重な豆で、人間が生活するのに必要な栄養素がすべて詰まっています。そういう豆をつくってバングラデシュに持っていけば、栄養失調の人もいなくなるはず。仙豆の研究をするなら、やはり農学部だろうと。