田原総一朗氏

【田原】率直にいうと、金融はいかがわしい産業だと僕は思います。たとえばリーマンショックを引き起こしたサブプライムローンは、お金を返せそうにない層にあえて貸し、証券化してレバレッジを利かせることでとんでもないことになった。こうした危うさについて、慎さんはどう思う?

【慎】ポイントは2つあると思います。1つは、やっている人の人間性です。

【田原】それは金融に限った話じゃないでしょう。みんなチャンスがあったら悪いことをしたい。それが人間です。

【慎】金融は目に見えないものを扱うので、ものづくりのように、自分がつくったものをやり甲斐と感じることができない。すべてのものがお金に換算されるので、価値観にもお金が侵食してくる。そういう人たちが悪さをしやすい状況があります。もう1つ、賃金の仕組みもよくない。うまくいったときは多額の報酬が手に入りますが、莫大な損失を出しても、解雇されて給料がゼロになるくらい。それが人を誤った行動に導いてしまうのではないかと。

【田原】つまり金融は自分の欲を充足させるのに向いたビジネスです。慎さんはそういった仕事をする一方で、NPOで社会貢献活動をしている。これは自分の中で矛盾していないのですか。

【慎】人が生まれや家庭環境によって可能性を阻まれない世の中をつくることが私の夢です。そのためには自分が力をつけなくてはいけないので、その手段として金融を選びました。キャリア選択がそこから始まっているので、金融の仕事で儲けても、そのお金に執着することは少ないです。高級時計や自動車にもあまり興味がなく、こういうタイプは、金融の世界では珍しいです。