※本稿は、栗山英樹『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』(講談社)の一部を再編集したものです。
11.5ゲーム差あったが、ワクワクしていた
思い起こせば、ファイターズの監督5年目の2016年、2度目のリーグ優勝を果たし、日本シリーズを制して日本一になったことがあります。しかしこの年、ファイターズは6月の時点で首位を走っていたソフトバンクに11.5ゲーム差をつけられていました。
プロ野球の長い歴史でも、これほどの大差を跳ね返して優勝したチームは数えるほどしかありません。ほとんどの野球関係者は、パ・リーグの優勝はソフトバンクだと考えていたと思います。
しかし、僕はあきらめていませんでした。むしろ、ワクワクしました。
「ここまで差をつけられて、もしひっくり返したら、これは面白いな」
追い詰められたときのほうが、僕は落ち着いていました。普通にやって勝つ以上に、落ち着いていました。
「そうか、こうなれば、やっちゃいますか」とまで思っていました。
札幌ドームの監督室の壁に、『真に信ずれば知恵は生まれる』と書いた紙を貼りました。僕は自分に問いかけました。お前は本当に勝とうとしているのか? 勝とうとしているんだろう? 選手に喜んでほしいんだろう? 選手を信じているんだろう? それなら、勝つことから逆算していま何をしなければいけないのか、知恵を絞るべきだろう?
ヤマ場の3連戦に「1番、ピッチャー、大谷翔平」
11.5ゲームの差です。普通にやっていたら流れは変わらない。思い切ったことをやるしかないと思いました。こういうときは思い切れるのです。
ソフトバンクは、2014年、2015年と日本一に輝いていました。僕たちは前年、17もの貯金を作ったのですが、それでも2位だった。ソフトバンクは本当に強かった。そのチームに大差をつけられているのです。
この年もある程度、戦っているのに、こんなに差が開いてしまった。追い越すどころか、追いつくのさえ至難の業。しかも、予算も潤沢にはない僕たちが、知恵と工夫で彼らを上回ることができたら、どんなにうれしいことか。
「何か大きなことをしでかしてやるぞ」と思いました。どこかでインパクトのある戦いをしなければいけなかった。
折しも7月頭にソフトバンクとの3連戦がありました。どうやったら、大きな手が打てるか。1ヵ月ほど前から考えていたことを実行に移しました。
「1番、ピッチャー、大谷翔平」
実は事前にまわりのスタッフに伝えたら、苦笑されました。
「監督、もう何をやっても大丈夫ですから。好きなようにやってください」
僕のことを最も理解している人たちに、こう言ってもらえた。そのくらいインパクトがあるなら、可能性はあるな、と思いました。