夏の甲子園の地区予選が始まった。高校卒業後も成長する球児を育てる指導者は何が違うのか。野球評論家のゴジキさんは「大谷翔平や菊池雄星というメジャーリーガーを輩出した岩手県・花巻東高校野球部監督の佐々木洋さんは類い稀な人材育成力に特徴がある。甲子園出場の常連校でありながら、野球部からは東京大学合格者も出ている」という――。

※ゴジキ(@godziki_55)『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)の一部を再編集したものです。

第93回全国高校野球選手権大会の開会式で入場行進をする花巻東高校
第93回全国高校野球選手権大会の開会式で入場行進をする花巻東高校(写真=Kentaro Iemoto@Tokyo/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

大谷翔平、菊池雄星、佐々木麟太郎……花巻東監督の“個”を生む極意

花巻東といえば、大谷翔平(現・ロサンゼルスドジャース)の母校である。さらに菊池雄星(現・トロントブルージェイズ)や米スタンフォード大に進学したことで話題になった佐々木洋氏の息子・佐々木麟太郎も輩出しており、2000年代後半から強豪校として一気に知名度を上げた。

組織力を上げることに評判のある強豪校が多い中、佐々木氏が率いる花巻東は、大谷・菊池とメジャーリーガーを2人も輩出しているように、類いまれな人材育成力に特徴がある。

その秘訣は、「目標シート」にある。それは、将来の大きな目標を真ん中に置き、そのために何をすべきかを細かくチャートにして書き込んでいくものだ。がむしゃらに練習するだけではなく、各選手が目標を意識しながら、練習はもちろん学生生活も意識高く取り組むことにより、大きな成長を遂げたと言っても過言ではない。

選手を大きく育てる2つの秘訣

佐々木氏は人材育成において「優先順位をつけること」と「型にはめないこと」を主張している。まず「優先順位をつけること」に関してだが、学校によって、練習時間も環境も人数も異なるのが前提にある。肩甲骨や股関節の可動域を広げるトレーニングなど、身体機能を高めるトレーニングは重要だが「家でもできるものがある。練習時間が短いなら、一人でもできるトレーニングをわざわざグラウンドで一斉にやる必要はない(※1)」という持論がある。これは、効率的な部分を意識しているのだろう。グラウンドでは基本的にグラブやボール、バットを使用した練習がメインになるが、グラウンド外は道具を使用しない練習ができる。例えば、ランニングにしても照明が最低限あれば可能だ。

佐々木氏は道具を使用できる時に、それらを活用した濃い練習を行うことの重要性を主張している。また、「手法にこだわらなくてもいい。例えば、雨だったら(練習を)やるくらいでもいいと思う(※2)」ともコメントしている。

次に、「型にはめないこと」だが、成功した指導法を、別の選手に対して同じようにやった結果上手くいかなかった過去の自身の失敗談を踏まえ、「誰かがこうやって投げているから……じゃなく、その子にとって何が正しいか。引き出しをいっぱい持っておけばいいと思います(※3)」とコメントしている。

例えば、大谷と同じ練習をすれば彼のように大きく成長できるかというと違うだろう。各選手に合った練習方法を導き出すために、その引き出しとしてサポートするのが指導者としての役割だということだ。

佐々木氏が監督に就任する前は、甲子園出場経験2回で通算1勝2敗と、強豪校としての土台があったとは言い難い。その上、岩手県には盛岡大付や一関学院などのライバルがいる中で、花巻東を甲子園常連校にまで成長させた。その佐々木氏が率いる花巻東の甲子園成績は以下である。

・ 佐々木洋氏就任時:18勝13敗、春の甲子園に4回、夏の甲子園には9回出場。春の甲子園準優勝1回。※前任者のデータは不明