菊池雄星に伝えた覚悟

選手を育成するにあたり、「伝統と習慣や感覚で教えていたものから、ハイスピードカメラや、ラプソード(※4)で動作的なものが、わかるようになってきた。(指導者として)選手の体は、繊細だってことを分からなきゃいけない。体のキレや、この子に合うとか、今はカタマイズして教える時代。昔なら、一方的だったけど、一人一人に教え方を変えなきゃいけない(※5)」とコメントするように、現代の高校野球に適した思考を持っている。

また、「日本でいい選手がこれから出てくると思いますし、世界で活躍する選手や高校野球のレベルも、とんでもないスピードで上がってくると思います(※6)」とコメントを残しているが、実際にこの佐々木氏は、菊池や大谷といった日本人でトップクラスの球速を誇る本格派の投手を育て上げた。

その具体的な指導としてはいいボールを投げるために体のメカニズムを選手自身に熟知してもらうことや、継続的に柔軟性を身に付ける大切さを説いている。

21世紀の甲子園最強左腕といわれた菊池を擁した2009年は、センバツ準優勝、夏の甲子園ベスト4とこれまでを振り返っても花巻東史上最高の成績を残した。その立役者である菊池は、花巻東に入学していきなり145km/hのストレートを投げて、周囲の度肝を抜いた。

2009年夏の甲子園決勝
2009年夏の甲子園決勝(写真=百楽兎/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

佐々木氏はそんな菊池に「卒業時にドラフト1位以外だったら大学に行け(※7)」と言い、ドラフト1位で指名されなければ監督を辞める覚悟を伝えたそうだ。入学した2007年、花巻東は夏の甲子園に出場し、菊池は1年生ながら甲子園のマウンドを経験している。

菊池の目標シートには、「実戦で使える投手」「MAX155キロ」「甲子園で優勝」、そしてその目標を達成するために必要な要素として「投球スタイルを確立する」「肩周辺の筋力UP」「徹底力」という言葉も書き込んであった。

菊池はノートに書いた通り、目標から逆算し3年生になるまで、心身を鍛え上げた結果、最後の夏、3回戦の東北戦では、左腕として甲子園最速となる154km/hを記録。甲子園優勝は逃したが、ドラフトで6球団による1巡目指名を受け、その後もプロで成長していく。2017年には最多勝と最優秀防御率を獲得し、翌年の2018年には埼玉西武ライオンズのリーグ優勝に大きく貢献した。2019年からは、メジャーリーグに挑戦し、2023年は2桁勝利(11勝6敗)を記録した。