※本稿は、香川靖雄『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(女子栄養大学出版部)の一部を再編集したものです。
92歳で元気なのは、“栄養学”を実践しているから
私の両親は栄養学者でしたから、「栄養」に配慮した食事を他の家庭に比べると摂取しやすかったのは間違いありません。でも、「両親が栄養学者であり、恵まれた環境で栄養価の高い食事をとり、大きな病気もなかったので長生きしている」というのは誤解です。
本書(『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』)でも紹介しているように、香川家は戦争で多くのものを失い、戦争末期から戦後2年間ほどは他の方々と同じように厳しい食糧難を経験しています。
また、母と姉が学園再建のため東京の仮校舎で過ごしていたため、私を含めた男兄弟だけで自炊していた期間もあります。さらに、66歳から86歳までは大学の近くのアパートで一人暮らしをしながら自炊していますし、本書の第2章で服用薬をご紹介したことからもおわかりのとおり、大きな手術もたくさん受けています。
にもかかわらず、92歳になっても元気に過ごせているのは、栄養学の知識を取り入れた食習慣を実践しているからです。そして、その食習慣は誰でも実行することができます。やるかやらないかの差だけなのです。
本稿では、みなさんの健康に役立つ情報をご紹介していきますので、ぜひ参考にして実践してみてください。
まずは健康によいお酒の量を考えてみましょう。私はある程度飲める体質ですので、学内でパーティーがあると、人並み程度には飲むようにしています。とはいえ、毎日飲むことはありません。
5グラム飲酒は「認知症に有益」というデータもある
お酒は、ほんの少しでも酔ってしまう人がいる反面、ご飯の代わりに毎日一升酒を飲んでいたのに長寿まで生きた……という人も稀にいるため、一概に適切な飲酒量は言えません。しかし、お酒を飲める人にとっては「1日あたりアルコール20g以下」が安全と言えます。
お酒の量で参考になるのは、2024年2月に厚労省が発表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」です。人それぞれ体質も違いますから一概にはいえませんが、飲酒によって、臓器へ悪影響を与えたり、認知症発症の原因になったり、高血圧等のリスクが高まることが指摘されています。
また、高齢者や女性に関する記述も重要なポイントです。ガイドラインには、高齢者は「飲酒量が一定量を超えると認知症の発症の可能性が高まります」とあります。また、女性については、体内の水分量が男性に比べて少ない等の理由からアルコールの影響を受けやすく、肝硬変になるケースがあると書かれています。
とはいえ、ガイドラインには「お酒は、その伝統と文化が国民の生活に深く浸透している」とも書かれており、飲めない体質の人は別として、おいしいものを飲んだり、食べたりすることは心の栄養になるのもまた事実です。
ここまで「リスク」にばかり注目してきましたが、実は、微量(1日5グラム)のアルコールは認知症、軽度認知障害に有益というデータもあります。
栄養指導という観点では、平均的な日本人は1日に純アルコール20グラム以下であれば適正とされています。お酒の種類によって、アルコール度数が違いますから、20グラムがどのくらいかを把握できるよう、いくつか列挙したいと思います。
日本酒(度数15%)→1合(180ミリリットル)
チューハイ(度数7%)→1缶(350ミリリットル)
ワイン(度数12%)→グラス2杯(200ミリリットル)
焼酎(度数25%)→グラス2分の1杯(100ミリリットル)
ウイスキー(度数40%)→ダブル1杯(60ミリリットル)