メディアは「研修医の誤診」ばかり報じるが…
「経験が浅い医師より、経験豊富な医師に診てほしい」
そう思う人がほとんどだろう。
「初回に診察した若い医者の診断は間違っていたけど、2回目に診てくれたベテラン医師のおかげで助かった」
じっさい、このような経験をした人もいるかもしれない。
さらに先日ネットを賑わせた、1年前に発生した日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(以後、日赤名古屋第二病院という)での医療過誤事案にかんする報道を見て、「やっぱり研修医には診てもらいたくない」と思ってしまった読者もいるのではなかろうか。
多くの大手メディアが以下のようなタイトルをつけて、研修医の診断と対応が患者死亡の直接原因であるかのように報じたからだ。
・研修医が誤診、高校生死亡 上級医に相談せず―日赤名古屋第二病院(時事通信)
・医療過誤で16歳死亡 研修医が誤診 日赤名古屋第二病院 /愛知(毎日新聞)
研修医の診断と患者死亡に直接の因果関係はない
当該患者さんの不幸な転帰には心からの哀悼の意を表するとともに、元消化器外科医としては、いずれかの時点で救命できたのではないかと、言葉に尽くせぬやりきれなさが募るが、本事案の責任を短絡的に研修医に負わせることには強い違和感を覚える。
それだけではない。研修医の診断と対応にのみ責任を押しつけて議論を閉じてしまえば、将来、それこそ医療過誤という形で私たちにブーメランが襲いかかってくる危険もあるのだ。
メディアの報じ方が原因で、問題の本質が覆い隠されてしまうことはこれまでもあったが、今回ほどその危機感を覚えたことはない。そこで本稿では、元消化器外科医そして研修医教育を担当する臨床研修指導医としての視点から、本事案とその根底にある問題について論じてみることとする。
これらの報道から約1カ月。すでに多くの医師たちから数々の意見がネットメディアやYouTubeなどから発信されたが、そのほとんどが研修医の診断と患者死亡に直接の因果関係はないとするものであった。
私の意見も同様で、研修医の診断の翌日に入院した以降に大きな問題があると考えている。ただ本稿は、直接死因の分析を主眼としたものではないので、簡単に私見を述べるにとどめておきたい。