緊急処置が必要だったのに、なぜ内科に送ったのか
この事案は昨年5月に発生したものである。紙幅の都合もあるので、まずは日赤名古屋第二病院の発表した文書で経緯を把握してから、以下にお進みいただきたい。
私がこれを読んで最も違和感を抱いたのは、研修医が診察した翌日、日赤名古屋第二病院を再受診した際に、消化器外科が診察し「SMA症候群の疑い」と診断した後、“消化器内科に入院した”という部分である。
ここで重要なのは「SMA症候群の疑い」と診断した部分ではない。メディアは、この稀な疾患を研修医が診断できなかったことが問題であるかのように報じたが、それは極めて的外れである。
重要なのは、「SMA症候群」であろうがなかろうが、近医が診ても「緊急処置が必要」なほど胃がパンパンだったという点だ。それにもかかわらず、緊急処置(場合によっては緊急手術)ができる外科が、内科に担当を振ったという部分に、元消化器外科医だった私は強い違和感を覚えるのである。
心停止の直前に胃が破裂した可能性
たしかに外科は手術適応でない患者さん、外科的処置を要しない患者さんを積極的に担当することはない。だが、今後の経過によって外科的処置(手術等)が必要になる可能性が少しでもある患者さんについては、まずは外科で入院させて経過をみるのが定石だ。状態の急変に機動的に対処できるからだ。少なくとも、私が在籍していた医療機関すべてで、それが当たり前だった。
過去に私は、急性胃拡張をきたした摂食障害の若年女性を、緊急手術による胃内容除去を行い救命し得た経験がある。開腹すると胃壁は透けんばかりにペラペラに伸びきっており、まさに破裂寸前であった。
また文献的にも本事案と極めて酷似した症例[成人に発症した特発性胃破裂の1例(A case of spontaneous rupture of the stomach in an adult)]がある。当初SMA症候群が疑われた点、不穏状態を示したことや急な心停止など、本事案に重なる部分が少なくなく、その酷似性に震えた。本事案もこの報告と同様に、心停止の直前に胃が破裂したということはなかったか。
もちろん外科に入院したからといって、救命し得たかはわからない。だが胃管による減圧が困難であれば、緊急開腹による胃内容除去という胃破裂を回避する手段を持ち合わせているのは外科である。入院後の対処を見れば、研修医の「誤診」が若き命を奪った直接原因であるやの報道には、医師として違和感しかない。内科に担当を振った外科医の見解を、ぜひ聞いてみたい。