研修医の過失ばかりが強調されていないか

次に臨床研修指導医の視点から、救急外来で研修医の判断のみで患者さんを帰宅させたという問題について考えてみたい。

この点についても、メディアは、あたかも研修医が上級医への報告を怠ったとの印象を読者に抱かせかねない報じ方をしているが、私はこれもミスリーディングであると感じている。

日赤名古屋第二病院も前掲の文書において「救急外来で撮影したCTにおける胃の過拡張像は、上級医に相談するべき画像所見でしたが相談していませんでした」、「同日2回目の受診では、ご家族の不安も強かったことから研修医2年次による単独診療で帰宅の判断をせず、上級医へ相談をするべきでした」などと、上級医のチェックなく患者さんを帰宅させたことを研修医のみの過失にあるかのような表現で記している。

これに続けて「相談できなかった背景として、当院では研修医2年次は上級医への報告確認が義務化されておらず、上級医への報告基準が明確なルールとして規定されていませんでした」として体制不備を認めているが、ここでも研修医の報告義務にしか言及しておらず、上級医の「指導義務」には一切触れていない。

ここで念のために確認しておくが、研修医は医師の資格を持ってはいるが「学習者」である。研修医を受け入れる医療機関は、そのことを片時も忘れてはいけない。

研修医を指導する私が気を付けていること

私も大学病院の研修協力機関である診療所で研修医2年次を指導しているが、いきなり「独り立ち」で外来診療を任せることはしない。まずは私が診療している姿を診察室内で見せつつ、気をつけるべきポイントを教え、その後じっさいに研修医に診療をさせて、患者さんに接する姿勢や診断治療を背後から観察し、独り立ちが可能かを見極める。

医師の話を聞く若い医療関係者
(写真=iStock.com/kazuma seki)
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この作業を数回繰り返せば、研修医の性格や技能、思考過程がある程度把握できる。そしてこの際、とくに私が重視するのは、知識や技術はさることながら、いかに患者さんの声を聞こうとするか、自分の意見を押し通そうとしないか、患者さんに害を及ぼさないことを第一に考えているか、という部分である。

いわゆる医師としてのプロフェッショナリズムをキチンと有しているかという点だ(医師のプロフェッショナリズムについては前回記事〈女児の陰毛を診察した「専門医」は、なぜ「今後も見る」と開き直ったか…元大学教授がトンデモ行動に出る根本原因〉参照)。これらに問題を抱えていない研修医には独り立ちさせるべく、その後の指導を重ねてゆく。