「幼稚舎をしのぐなど100年早い」
「稲花という小学校を意識したことなど一度もありません。そもそも、名前を耳にしたのも今回が初めて」
と話すのは慶應義塾幼稚舎のOG。中学生の一人息子も幼稚舎からの塾生(慶應在学生)だ。
彼女が東京農業大学稲花小学校(東京・世田谷区)の存在を知ったのは先日、「日経ビジネス電子版」で「お受験で下剋上 開校わずか6年目の私立小、慶応幼稚舎しのぐ人気」(5月8日配信)という記事を読んで。そこでは同校の躍進ぶりをレポート。志願倍率などを比較し、幼稚舎に「引けを取らない人気」だと伝えている。
「志願倍率で幼稚舎を超えたと書いてあり、その通りだったんですが、少し気になったので2024年度入試(2023年11月実施)を調べてみると、稲花小の実質倍率(受験者数÷合格者数)は8.9倍で、幼稚舎(9.6倍)より下だった。もっとも、こうしたデータを比べてどちらが上でも、稲花のような新興小学校が幼稚舎をしのぐなど、100年早い気がしますが」(同OG)
稲花小学校が開校したのは2019年。東京23区内に新しい小学校が誕生するのは59年ぶりだった。東京農業大学は系列中高一貫校3校を擁するが、小学校は初めて。同大の関係者によると、「少子化の進む中、早いうちから優秀な人材を確保するために小学校から大学までの一貫教育を取り入れるべきではないかとの意見が以前からあった」という。いわゆる青田買いの発想である。
ただ、稲花小学校の場合、東京農業大学までの内部進学の可能性があるという理由で人気が出ているわけではない。「慶應義塾大学に進むことがほぼ約束されている幼稚舎とは事情はだいぶ異なる」と話すのは「お受験」の世界を30年以上見てきた幼児教室の経営者だ。「慶應と東京農大のブランド力の差は歴然としていますが、そもそも稲花小の受験者は大学までを想定しているとは限らない」という。