幼稚舎OBOGの特権意識

新興小学校など歯牙にもかけないという態度の幼稚舎OGだが、その不遜ともいえる言動はどこから来るのだろうか。良くも悪くも「幼稚舎は私立小学校の最高峰」であるという強烈な自負がうかがい知れる。それもそのはず、小学校受験いわゆるお受験ブームを牽引してきたのも幼稚舎なのだ。

慶応義塾大学幼稚舎小学校
慶応義塾大学幼稚舎小学校(写真=Harani0403/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

1994年、「スウィート・ホーム」(TBS)というドラマが大ヒットした。山口智子が演じる母親がお受験の狂騒に巻き込まれていくストーリーだ。最終回で主人公の息子が合格するのが「慶陽幼稚部」という小学校だった。

この回は26.9%の最高視聴率を記録した。演出したのは昨夏大きな話題となった同じTBSの日曜劇場「VIVANT」などヒットを飛ばし続ける福澤克雄氏。慶應を創設した福澤諭吉の玄孫やしゃごである。慶陽幼稚部のモデルが福澤氏の母校・幼稚舎なのはいうまでもない。ちょうどこの頃、幼児教室を始めたという前出の経営者は次のように振り返る。

「“お受験”という言葉が広まったのも、このドラマからです。そうした世界を皮肉った内容なのに、これをきっかけに小学校受験が右肩上がりで伸びていく。ドラマによって幼稚舎が身近になり、セレブの日常が自分たちの手の届くところにあるとママさんたちに思わせたのです」

幼稚舎が開校したのは1874年。日本最古の私立小学校である。幼稚舎の生徒は「自分たちこそが慶應を代表しているといった意識が6年間のうちに植えつけられていく」(OG)という。幼稚舎から中等部や普通部に内部進学すると、そうした意識の影響がもろに出る。幼稚舎の卒業生以外は中学や高校を受験して慶應に入ってきた生徒。そこで、幼稚舎出身者は自分たちのことを「内部」、中学からの生徒を「外部」と呼んで区別するのだ。

「幼稚舎でないほうが人数が多いし、差別されたわけではありませんが、彼らが僕らのことを外部と呼んでいるのを知って、いささかショックでした」と振り返るのは慶應義塾高校(通称「塾高」)から入学した塾員(慶應義塾大学卒業生)だ。

「幼稚舎からの連中の中にはものすごく勉強ができる生徒もいる代わりに、劣等生も少なくなかった。塾高ではけっこう留年者も出るんですが、その多くは幼稚舎OBだった。なのに、いつまで経ってもエリート意識だけは持ち続けている感じでした」