なぜ簡単に資本増強できるのか
JAバンクの中央機関、農林中金は、5月22日の記者会見で、米金利高止まりによる外債価格下落で、2025年3月の赤字が5000億円となる見込みとなり、傘下のJA農協から1兆2000億円の資本増強を受けると公表した。ところが、6月18日、報道各社がその最終赤字は1兆5000億円規模に拡大する可能性があると相次いで報じた。08年のリーマンショックの際にもサブプライムローン問題で5700億円の赤字を計上し1兆9000億円の資本増強を行っている。
JA農協の金融機関である農林中金が、なぜ多額の資金を外債で運用して損失を被ったのか、なぜ簡単にJA農協から巨額の金を集められるのか、不思議に思われる人が多いのではないか。本稿では、その理由や背景と今回の赤字が農業に与える影響について述べたい。
JA農協が持つ「政治力」と「資金力」のルーツ
戦前、農業には「農会」と「産業組合」という2つの組織があった。
「農会」は、農業技術の普及、農政の地方レベルでの実施を担うとともに、地主階級の利益を代弁するための政治活動を行っていた。農会の政治活動の最たるものは、米価引き上げのための関税導入だった。
農会の流れは、現在農協の営農指導・政治活動(JA全中の系統)につながっている。地主階級が米価引き上げや保護貿易を推進したのと同様、農会を引き継いだJA農協は、高度成長期に激しい米価闘争を主導したし、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉、TPP等の貿易自由化交渉においては、農産物の貿易自由化反対運動を展開した。
「産業組合」は、組合員のために、肥料、生活資材などを購入する購買事業、農産物を販売する販売事業、農家に対する融資など、現在農協が行っている経済事業(JA全農の系統)と信用事業(JAバンク、農林中金の系統)を行うものだった。
JA共済事業は、職員に過酷なノルマを課すことで、勧誘がうまくできないと自分で保険に加入したり他人の保険料を負担したりする自爆営業を行わせていることが問題となっている。これは、戦後追加されたもので、本来農業と関連するよう考えられたものだが、今の事業は、生命保険や損害保険と変わらない。