農業の生産額を超えて拡大したJAバンクの預金

JAは、急増した預金量を農業や関連産業への融資では運用しきれなくなった。このため、JAは、農協だけに認められた准組合員制度を活用して農家以外の人を組合に積極的に勧誘し、他の都市銀行に先んじて住宅ローンなどの個人融資を開始した。今や准組合員は634万人で農家組合員の1.6倍に達する。また、准組合員はローンや共済を利用するだけでなく、預金もしてくれるので、さらに預金額は増える。JAは農家以外の組合員が多い“農業”協同組合となった。

図表1は、農業生産額とJAバンクの預金総額の推移である。1960年頃は、JAバンクの預金額が農業生産額を下回っていたが、1970年頃から逆転し、今では10倍以上もの開きがある。JAが農業に融資したくても、預金額に比べて農業の規模はあまりに小さい。さらに、農業には、政府系の日本政策金融公庫による長期低利の制度資金がある。また、大きな農業法人のメインバンクは地銀となっている。JAバンクの農業融資は、これらの金融機関と競合する。このため、JAバンク全体で農業への融資は預金総額の1%程度に過ぎない。

【図表1】農協貯金平均残高(2015年基準実質価格)

農業の赤字を金融事業で補てん

現在JAバンクの預金量は109兆円に上る。

以前から、JAバンクの貯貸率(預金に対する貸し出しの比率)は3割程度であり、他の銀行に比べて著しく低いことが指摘されてきた。JAは、准組合員向けの住宅ローンや自動車ローン、農家が農地転用した土地に建設するアパート建設資金への融資などで努力しても、30~40兆円程度しか処理しきれない。

60兆円超の運用を任せられる農林中金は、日本有数の機関投資家として海外有価証券市場で大きな利益を上げ、預金集めの見返りとして傘下のJAに毎年3000億円の利益を還元してきた。JAが簡単に資本増強に応じるのも、今までの受益の蓄積があるからだ。逆に、JAに利益を還元するためには、国内ではなく収益の高い海外で運用するしかなかった。しかし、今回の赤字計上で、今まで通りの資産運用はできなくなっている。

21年JAの収益は、信用(銀行)事業で2425億円、共済(保険)事業で1160億円の黒字、これに対して、農業関連事業は226億円、生活その他事業は229億円、営農指導事業は978億円の赤字である。金融事業からの補てんで、農業等の事業を行っているのだ。

別の見方をすれば、大手商社も農業資材分野で活動しているにもかかわらず、JA農協が肥料で8割、農薬や農業機械で6割の圧倒的な販売シェアを維持しているのも、この補てんによる効果があるからだろう。私の郷里の葬祭業者は店をたたんでしまった。住民が葬式を出そうとするとJA農協に頼むしかない。