2023年10月の全銀ネットのシステム障害をはじめ、江崎グリコの一部商品出荷停止など、日本企業のシステムトラブルが後を絶たない。背景には何があるのか。リクルートなどでシステム開発の経験がある麗澤大学工学部教授の宗健さんは「システム開発をしている大手SIerとユーザー企業の信頼関係が重要だ」という――。
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プログラミングが得意な人を集めても「システム」は作れない

最近ではDXがバズワードとなり、さまざまな事業者がDXをキーワードにさまざまな製品・サービスの売り込みを行っている。こうした背景もあり、DXのPoC(Proof of Concept:概念実証)を内部で行うために、pythonなどのプログラミングが得意でデータサイエンスの素養のある若手を積極的に採用する企業が多くなっているようだ。

しかし、そうした若者を、PoCから自社システムの企画や開発に振り向けてもうまくいかない。

なぜなら、プログラミングやデータサイエンスは、システムの企画・設計・開発・運用のごく一部でしかないためだ。

システム開発とは、多くの人たちが関係するプロジェクトであり、システム開発をうまくやるために必要なのは、第一にシステムのアーキテクチャをうまく設計することであり、次がプロジェクトをうまくマネジメントすることである。そして、システムアーキテクチャの設計やプロジェクトマネジメントには、職人芸的なプログラミングスキルも高度なデータサイエンスのスキルも必要ではない。

そもそもプログラミングスキルが高くデータサイエンスの素養のある若者には、大規模な企業でのシステム開発の経験はない。

ひとはやったことがないことは基本的にはできないのだ。

有名なサイトが数多く立ち上げられていた2000年前後

筆者が長く勤めたリクルートの創業は1960年だが、早くも1968年には科学計算用の小型コンピュータであるIBM1130を導入している。筆者が入社した1987年以降は基幹システムにはIBMのメインフレームを使いつつ、各事業部門でのダウンサイジング、オープン化が進められ、社員がプログラミングし業務システムを構築していった。

1995年にはMixJuiceというインターネットサイトが開設され、そこから約10年かけて各事業の紙媒体(リクルートブックや住宅情報、じゃらんやカーセンサーなど)をネットに変えていく、という大改革を行っている。これは今で言うDXそのものだろう。

そして、2000年前後には、リクルートナビや住宅情報(現SUUMO)、じゃらんなどの大規模なサイトの新規開発が各事業で行われ、さらに毎年のように大規模なリニューアルも行われた。

こうした状況はリクルートに限ったことではなく、Yahoo!(日本では1996年開始)や楽天(1997年創業)など現在でも有名なサイトの多くがこの時期に立ち上げられている。

2000年前後のネット開発は、それまでのホスト系技術者には勝手がわからず、30歳代の若手が主導することが多かった。

そうして経験を積んだ当時20歳代の若者は、いまでは50歳前後に、30歳代の中堅は60歳前後となり、いまでもシステム開発の第一線や企業の役員として活躍している人も多い。