「つぎはぎのシステム」には組織運営上のメリットもある

それがプロジェクトのオーバーヘッドとなり、同時にミスもどんどん増えていく。

さらに、できあがったシステムに手を入れる場合にも、小さなシステムでは手を入れる範囲をすぐに特定できるが、巨大な統合システムでは手を入れる範囲を特定するだけでもものすごい手間がかかる(一般的には影響範囲調査と呼ばれ大きなコストになっている)。

しかも影響範囲が広ければそれだけテストのコストも上がっていく。

システムが統合されておらずつぎはぎの場合には、組織運営上のメリットもある。

統合システムを作ったとしても、次の大規模なシステム開発は10年後どころか20年後になることもあるが、例えば5つのシステムをつぎはぎで使っている場合には、1つのシステムを20年ごとに4年かけて更新したとすれば、常にシステム開発が続くこととなり、若者もベテランも新しい経験を積む機会が継続的に確保される。

さらに、統合システムを一気に開発するよりも小規模な体制をずっと維持できることから、安定した雇用を維持できることにもつながる。

統合システムと言えば聞こえがいいが、安易にシステムを統合するべきではないのだ。

厳密な年度計画はIT戦略の足を引っ張る

ほとんどの日本企業は年度計画に従って動く。組織の一つである情報システム部門も当然年度計画を立てるが、実はシステム開発には厳密で計画的な年度計画は不要どころか、IT戦略の足を引っ張ることになる。

年度計画は前年度の1~2月に立てられることが多いが、情報システム部では各部門からの開発要望を集め、それによって年度計画を策定する。

カレンダーと時計のスケジュールイメージ
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問題は、ここでエントリーされなかった案件が、どんなに事業に必要なものであってもほとんどの場合先送りにされることだ。

事業環境は刻々と変わっていくから、実際にはIT関連の案件は、少なくとも3カ月ごとに見直しをかけ、その時点時点で必要な案件の優先順位をつけ、案件の順番を入れ替え、開発体制を変更していく必要がある。

しかし、こうした案件の調整には、経営情報を把握しているだけの立場と、案件ごとの難易度や工数を判断できる高度な専門性と、経営陣・事業部門・情報システム部門・外注先であるSIerなどのベンダーとの複雑な関係を踏まえた調整能力、優先順位や案件内容を説明し、関係者を納得させモチベーションを喚起する力など、さまざまな力が必要となる。

さらに、案件を集め調整するだけではなく、新しいプロジェクトを提案し、実行していくことも求められる。

これが、本来のCIOの仕事だ。そして、こんな高度な仕事ができる人材はそうそういない。