「チェックのためのチェック」がコストを増やしている
昨年10月の全銀ネットのシステム障害をはじめ、江崎グリコの一部商品の出荷停止、ゆうちょ銀行の入金遅延など、最近ではシステムトラブルがメディアを賑わすこともあり、実際に迷惑を被った人もいるかもしれない。
そして企業もシステムの障害が起きないようにもちろん努力しているが、その努力がシステム開発の現場を萎縮させ、生産性とモチベーションを大きく下げるリスクがあることも指摘しておきたい。
日本のシステム開発は、ユーザー企業がSIerに「発注」し、SIerが「受注」する構造になっている。見た目の力関係は、当然、発注側のほうが強いから、ミスが起きれば、発注先のSIerに原因究明と再発防止策を求めることになる。そしてこの時、「単なる作業ミスでした。今後気をつけます」というシンプルな話で終わることはまずない。
ミスのたびに原因が追及され再発防止策(その多くはチェックの追加だ)が練られることが繰り返されていくと、チェックのためのチェックが行われ、チェックが多重化すればするほど一つ一つのチェックはいい加減となり、品質は上がらないままコストはどんどん膨らみ、チェックのチェックをやらされる担当者のモチベーションは下がっていく。
2000年当時と現在を比べると体感的・感覚的なシステム開発コストは軽く5倍くらいになっていると思うが、その原因の多くはここにある。
SIerとユーザー企業に十分な信頼関係が構築されていない
実際、筆者の2018年の論文「発注者と開発者のスキル・意識の違いがシステム開発に及ぼす影響」(※1)では、「意識的に余裕を持ったスケジュールを提示することがある」という設問にYesと回答した大手SIer管理職は29.6%に上る。あらかじめ予防線を張っているわけだ。
さらに発注側が「コストばかり言ってくる」と回答した大手SIer管理職は42.6%に上り、発注先の「知識・スキル・経験が足りない」という回答した大手SIer管理職は38.9%に上る。
こうした結果を見ると、システム開発の現場で十分な信頼関係が構築されているとは言えない。
一方で、「発注側と開発側の信頼関係はシステム開発で重要である」という回答には、ユーザー企業管理職の69.8%が、大手SIer管理職の85.2%がYesと回答している。
システム開発をうまく進めるためには、信頼関係の構築から始めるべきなのだ。
(※1)宗健(2018)「発注者と開発者のスキル・意識の違いがシステム開発に及ぼす影響」経営情報学会春期全国研究発表大会