日本の食料自給率は38%だ。このままでいいのだろうか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「日本の食料供給は輸入に依存している。このままでは台湾有事などでシーレーンが破壊され、輸入が途絶した時に深刻な食料危機が起こる。食料自給率を上げるために、いますぐ減反政策を廃止すべきだ」という――。
スーパーマーケットの空の棚
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輸入途絶で起こる深刻な食料危機

ロシアがウクライナに侵攻し、またイスラエルとパレスチナ武装勢力が戦争状態となり、世界は第三次世界大戦に発展するのを食い止められるかの瀬戸際にある。アジアでも中国が攻撃的な態度を強めている。日本にとっても対岸の火事ではない。

台湾有事で専門家が危惧している最悪のシナリオがある。中国軍が台湾に上陸しようとしても、米軍に制空権を握られていれば、空爆されるので上陸できない。中国がこれを避けようとすると、沖縄だけでなく三沢までの在日米軍基地を叩くというのだ。

こうなれば、日本の周辺全てが戦争に巻き込まれる。台湾周辺のシーレーンだけでなく、日本への全てのシーレーンが破壊されることになる。これまでの事態とならなくても、船主は巻き添えを怖がって日本への輸送を控えるようになる。

輸入が途絶すると、食料自給率38%のわが国では深刻な食料危機が起きる。小麦も牛肉も輸入できない。輸入穀物に依存する日本の畜産はほぼ壊滅する。米主体の終戦直後の食生活に戻る。

当時の米の一人一日当たりの配給は2合3勺だった。今はこれだけの米を食べる人はいない。しかし、肉、牛乳、卵などがなく、米しか食べられなかったので、2合3勺でも国民は飢えに苦しんだ。

米の供給量は必要量のわずか半分

1億2000万人に2合3勺の米を配給するためには、玄米で1600万トンの供給が必要となる。しかし、現在の米の生産量は670万トンしかない。今の供給量は、備蓄等も入れて800万トン程度しかない。輸入小麦の備蓄も2、3カ月分しかない。危機が起きて半年後には国民全員が餓死する。

米の備蓄は100万トンだが、通常時の米の消費量が減少していることと年間500億円もの膨大な財政負担がかかるので、農林水産省は備蓄量の引き下げを検討している。農林水産省は食料安全保障強化を唱えながら逆のことをしようとしている。

1960年から比べて、世界の米生産は3.5倍に増加したのに、日本は4割の減少である。なぜか。それは農林水産省が、減反(生産調整)政策を行ったからだ。

減反とは、農家に補助金を与えて米の供給(生産)を減少することで、市場で決まる米価よりも高い米価を実現しようとするものである。これは1970年以来半世紀以上も続けられている。減反を始める前は350万ヘクタールあった水田は、今では235万ヘクタールしかない。