そもそも輸入途絶が起こった時、1億2500万人が餓死しないために、どれだけの食料が必要なのかも、「中間取りまとめ」には提示されていない。これがないとどれだけ農業生産を拡大しなければならないのか、必要な農地資源、石油や肥料等の生産要素、穀物備蓄の規模などを検討できないはずだ。
提示しないのは、農林水産省がどれだけ食の安全保障を脅かしてきたか明るみになるからだろう。国民は、農林水産省が主張する食料安全保障のウソに騙されてはいけない。
減反にこだわるのは農協の利益になるから
しかし、読者は不思議に思うのではないだろうか。減反が高い米価を維持して、農家の収入を保障するのが目的なら、生産量を増やして米価が下がった分だけ直接払いで補塡すればいい。一時アメリカもEUも減反を実施したことがあるが、今はしていないし、なにより50年以上も続けているのは日本だけだ。
なぜ、日本の農政は減反政策にこだわるのだろうか。
それは、欧米になくて日本にあるものがあるからである。JA農協である。
アメリカにもEUにも農家の利益を代弁する政治団体はある。しかし、これらの団体とJA農協が決定的に違うのは、JA農協それ自体が経済活動も行っていることである。このような組織に政治活動を行わせれば、農家の利益より自らの経済活動や組織の利益を実現しようとするのは明らかだ。
JA農協の収入源は銀行(信用)事業である。米価を上げたので兼業農家が滞留した。兼業農家によって兼業収入や農地の売却益を預金されたJAバンクは、100兆円を超える預金額を持つ日本トップレベルの銀行となった。JAバンクはそれをウォールストリートで運用して巨額の利益を得た。JA農協は銀行事業の利益を活用して地域の葬祭業者などを駆逐し、独占的な地位を獲得している。農業の世界でも、この利益を利用して採算度外視の価格で肥料を販売し、肥料商の経営を圧迫している。かれらを廃業に追い込んだ後に、独占的な価格で農家に肥料を売りつけようと考えているのだろう。
高米価で維持してきたコストの高い零細な兼業農家が、農業を止めて組合員でなくなれば、この利益はなくなる。また、農家戸数が減少すれば農協は政治的にも基盤を失う。JA農協が減反による高米価に固執するのは、JA銀行事業の利益を守りたいからである。これが「国消国産」を唱えるJA農協の裏の顔だ。
なお、図表2で信用(銀行)事業と並んで利益を上げている共済事業とは、生命保険と損害保険の事業のことで、JA農協職員が上からのノルマ達成のために知人や自分に掛けた保険料を自らの給料で負担する“自爆”行為が暴露されている。これは長年行われてきたものである。