「犯罪加害者の家族」が事件後に失うもの
筆者はNPO法人World Open Heartにおいて、全国の加害者家族3000件以上の相談を受けてきた。諸外国の支援団体の報告では、犯罪者の家族は貧困家庭の割合が高いが、当団体の相談者の傾向は、経済的に中流と言われる家庭がほとんどで、生活困窮家庭からの相談は少ない。
身内が犯罪者になったからといって、必ずしも家族が責任を負うものではないが、相談者の多くは加害者家族としての「社会的責任」を感じ、事件の処理を担うことに積極的である。社会的責任は、会社や地域といった何らかのコミュニティに属しているからこそ生まれる発想でもあり、ときには法的な責任を越えて加害者家族に重くのしかかってくる。
相談者の多くが教育水準も経済状況も平均的だが、だからといって突然降りかかってきたトラブルに余裕を持って対応できるわけではなく、事件を機に、生活困窮に陥るケースも稀ではない。日本の加害者家族が抱える困難のひとつは、事件前後の生活格差であり、失うものがある人ほど、過酷な状況に追い込まれるケースも少なくない。
事件後、被害弁償の支払いや転居費用、面会のための旅費交通費など、相談者の多くは、多額の経済的負担に悩まされている。相談者で、加害者家族が事件後に要した費用を調査したところ、平均額は500万以上にも上っていた。
被害弁償で家計は崩壊する
たとえば、20歳の大学生の息子が、突然、振り込め詐欺で逮捕されたAさんは、被害弁償として約500万円を支払った。逮捕された場所が遠方だったことから、面会や弁護人との打ち合わせの旅費交通費の負担が大きく、息子が収監され出所するまでの面会交通費は総額100万円近くに上った。
「そんな余裕のあるうちじゃありません……。とにかく、弁償しなければと親戚からかき集めました」
大きな出費はなくなったが、前科者の社会復帰は難しく、刑務所を出所した息子の収入は安定せず、実家で面倒を見ている。
「親の責任はいつまで続くのか……、不安で仕方がありません」
未成年者の息子が放火事件を起こしたBさんは、被害弁償として約1500万円を支払い、息子自身も重傷を負っていたことから治療費や弁護士費用に300万円以上を要した。Bさんもまた、息子は就労困難な状況にあり、家族が面倒を見ているため経済的な負担は続いているという。
最近、増えているのは性犯罪加害者家族となった人々の経済破綻である。
本稿では、ある日突然、家族が性犯罪に手を染めたことから生活が一変していった2つの家庭を紹介したい。なお、個人が特定されないよう、登場人物はすべて仮名で若干の修正を加えている。