横浜初等部など相手にしていない

慶應には幼稚舎のほかにもう1校、小学校がある。2013年に開校した慶應義塾横浜初等部だ。2024年度入試の志願倍率は幼稚舎が10.6倍(定員144人、志願者数1532人)だったのに対し、横浜初等部13.2倍(108人、1429人)。横浜初等部のほうが狭き門ということになるが、幼稚舎OGは「他の新興小学校と一緒。伝統の重みがまるでない。相手にしていない」と眼中にない様子。幼稚舎のプライドなのか、負け惜しみなのか判然としないものの、前出の幼児教室経営者は「たしかに幼稚舎のほうが人気ははるかに上」だと話す。「慶應は戦略的に入試日をずらして、幼稚舎も横浜初等部も受けられるようにしている。どちらも合格した場合、幼稚舎を選ぶケースが圧倒的に多い」というのだ。

慶應義塾大学校旗
慶應義塾大学校旗(写真=XIIIfromTOKYO/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

保護者からすると、幼稚舎にセレブ家庭が多いという点に魅力を感じるようだが、理由はそれだけではない。中学への内部進学で、両校には明白な差があるのだ。幼稚舎からは中等部、普通部、湘南藤沢と慶應傘下のすべての中学を選べる。一方、横浜初等部からは湘南藤沢以外の選択肢はない。さらには、中等部からはすべての高校、男子校の普通部からは慶應義塾女子高校を除くすべての高校に行くチャンスがある。しかし、湘南藤沢中学からは湘南藤沢高校だけ。つまり、あらゆる可能性を残している幼稚舎とは違い、横浜初等部に入った時点で高校までのコースが決められてしまうのだ。

「当面、幼稚舎の優位性は揺るぎそうにない。あくまでも大学までずっと慶應という前提ですが」と幼児教室経営者は話す。

ただ、そのアドバンテージも最近、少し怪しくなっている。大学までの内部進学がほぼ約束されている有名小学校の人気に陰りが見え始めているのだ。2024年度の志願者数は前年度から軒並み大幅に減った。幼稚舎52人減、横浜初等部56人減、早稲田実業初等部142人減、青山学院初等部54人減、成蹊小学校112人減……。

「小学校の段階で子どもを大学まで決められたコースにはめ込んでしまっていいのか、親たちも疑問を感じだした。子どもたちにはなるべく楽をさせたいが、本人の主体性に委ねる余地も残しておかなければならないと気づき、稲花小のような新興小学校にも目が向くようになった」(幼児教室経営者)

お受験の世界も大きな曲がり角に来ていることだけは間違いなさそうだ。

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