中高年以降に低下を指摘される「想起」

つまり、これは過去に記憶したことは、脳から失われていないということを示しています。

ところが、再訪という機会にその景色を見なければ、おそらくこの先も、30年の間にインプットしたほかの情報に埋没して、しまい込まれたままだったはずです。

こういうことは、何も大人だけに起こるというわけではありません。大人より記憶力がいいのではないかと思わせる子どもの場合は、それを思い出すことさえできないことがあります。

「あいつが小さいとき、連れて行ってやった戦隊ショーで迷子になって大騒ぎしたのに、何にも覚えていないんだからな」

ある日ふとお父さんがぼやき始めるのですが、お父さん自身にしたところで、何も戦隊ショーの日からこの日まで、ずっとそのことを思い起こしていたわけではありません。これもよくあるパターンです。

記憶の機能は、情報を頭にインプットする「記銘」、インプットした情報を長期間、頭に貯蔵する「保持」、貯蔵した情報を頭からアウトプットする「想起」の3段階で構成されます。

中高年以降でも記銘、保持には大きな問題は生じませんが、低下が指摘されるのが想起です。

放っておけば「頭が悪くなった」と嘆き続けることになりますが、想起力を維持するためには、アウトプットを繰り返しながら記憶を定着させるのが有効な方法です。

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60歳からは「だって覚えられないんだから」と開き直る

さて、知識のインプットにばかり励んで、自分の頭で考えたり、アウトプットをおろそかにしている知識依存症候群の場合はどうでしょうか。

もともと記銘する情報量が多すぎる、言い換えると脳への上書きが過剰であるということに加え、思考やアウトプットの習慣がないわけですから、これでは知識をどんどん詰め込んだところで、使える状態で脳に定着させることはできません。

そして、知識が上書きされるほど想起はかえって悪くなるのです。

つまり記憶の出力経路(アウトプット経路)をしっかり意識してつくらなければ、知識注入型の勉強を重ねても、かえって記憶力まで悪くなっていくのです。

60歳からは、多量な情報のインプットは「だって覚えられないんだから」と開き直るくらいでちょうど良い。

むしろ、ラクして楽しくアウトプットすることに注力したほうが、前頭葉も刺激され、記憶も定着するのです。