先行きの見えない時代に身を守るものはいったい何か。数多くの起業家や著名人を取材してきたライターの上阪徹さんは「自らを守るには経験が大事。経験が得られない環境にいることが実は最も危険」という。柳井正さんと藤田晋さんの取材からお届けする――。

※本稿は、上阪徹『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

決算/決算説明会に臨む柳井会長兼社長
写真=時事通信フォト
決算説明会に臨むファーストリテイリングの柳井正会長兼社長=2024年4月11日、東京都港区

「買う人の時代」を見抜いた柳井正さん

ユニクロの柳井正社長のインタビューもよく覚えています。

1984年に1号店を出店。以後、驚くほどの成長でまさに日本を代表する企業へと躍進しました。

柳井さんがインタビューで語っていたのは、当たり前のことを当たり前にしている、でした。それだけなのだ、と。会社の存在意義やビジョンをしっかり共有し、それを社員全員が意識して仕事に取り組んでいる。商売の原点をきちんと守っている。

小売りの世界は、以前は生産者の時代でした。店頭で販売している人の時代が、買う人の時代に変わった。かつては業者が「うちは販売だ」「うちはモノを作る」「うちは物流」と勝手に決めていましたが、本当に買う人の立場に立って責任を持って商売をしようと思ったら、企画から生産、物流、販売まで、一貫して手がけるのが自然なのだと語っていました。

買う人とモノを作っている人のインターフェースに立ち、そのすべてをコントロールできることは、企業として理想的。リスクは100%自分たちにあるけれど、リターンも100%ある。これも商売の原点だ、と。

行動してから修正するのが商売である

もう一つ重要なことが、個人個人の仕事がきちんと実行されていることです。

柳井さんは、個人の能力が企業を左右する時代になったと語っていました。だから、採用を重視し、優秀な人材をその時代ごとに受け入れ、ステージを変えていったのです。

実は24歳で家業を継いだとき、柳井さんとの意見の衝突で、7人いた店員が1人を残して全員辞めてしまいました。経営者としては、いきなりの大失敗。しかし、結果的に商売に関しては自分で経験することができた。販売、人の管理、仕入れ、返品、経理……。この体験が大きな意味を持つのです。

ただ、30代までは、目の前の経営をすることでいっぱいいっぱいだったので、将来のビジョンなんて描けなかったそうです。心掛けていたのは、とにかく会社をつぶさないようにすることだけだったのです。

失敗もたくさんしたと言います。しかし、致命的にならない限り失敗はしてもいいと考えていました。

やってみないとわからない。

行動してみる前に考えても無駄。

行動して、考えて修正すればいい。それが人生だし、それが商売だと考えている、と。