中高年になっても、頭を良くするにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「ものごとについての判断基準が、その説の妥当性ではなく『誰が言っているのか』という人的要素に置かれる考え方を『属人思考』というが、これはじつに危険な態度だ。自分が好意的に捉えるある特定の人物、ある特定の説ばかりを深掘りして勉強したつもりになっても、多くの場合その説をなぞっているだけで思考していないから、決して賢くならない。『60歳からは勉強するとバカになる』という現象のあらましはここにある」という――。

※本稿は、和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

聴衆の前で話す人
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「勉強するとバカになる」の真意

知識依存症候群や知識の奴隷状態の弊害として、「勉強するとバカになる」という現象があります。

これは、ひたすら知識のインプットばかりにとらわれているせいで、それが正しい知識と思っているために考えることをしないし、本人の感覚として、「やってもやっても覚えられない」という状態に陥っていくものです。

記憶力が落ちてきたのではないかと不安に駆られると、より焦って勉強をする人がいます。

たしかに中高年になれば、誰もが記憶力の低下を痛感する場面が増えていきます。

こんなとき、「昔に比べて覚えが悪くなった」「のどまで出かかっているのに、その言葉が出てこない」とため息をつくのですが、本当に脳の記憶機能が減退するのでしょうか。

じつは最近の脳科学の世界では、中高年になったからと言って記憶力が悪くなるのではなく、記憶したことは脳に残っていますが、それを記憶として呼び出す想起のはたらきが悪くなるという説が、かなり有力視されています。

たとえばこんな場面を想像してみてください。

かつて旅行したハワイを30年ぶりで訪れた人が、レンタカーでドライブしているとき、ヨットハーバー近くの老舗レストランの前を通りかかる。

目的があってそこに向かっていたわけではありませんが、変わらぬ店のたたずまいを見た瞬間、「あ、30年前、ここでランチを食べた。ビールを飲みすぎて帰りは運転を代わってもらったんだ」と思い出す。

こうして、30年間まったく思い返すこともなかった記憶が生き生きとよみがえる――こういうことはみなさんも経験したことがあるでしょう。