「息子たちにとって、頼れる大人は私一人だけなんだ」。発達障害の長男とひきこもりの次男を育てるシングルマザーは今、何を思うのか。疲れ果て、絶望の末に行き着いた母の気づきとは――。
朝に祈る女性
写真=iStock.com/Tinnakorn Jorruang
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放課後はいつも一人でゲームばかり

「やっぱり、手が足りなかった」

シングルマザーとして2人の息子を育てる小林尚美さん(仮名、56歳)は、そう言って唇を噛む。

「発達障害の場合、その兄弟のサポートも家族がしないといけない。傷ついていることが多いから、心のケアが大切だとは、チラッと聞いてわかっていながらも、長男を不登校やひきこもりにしたくない一心で必死にやってきたけれど、弟のことはおろそかになっていたと思う」

39歳で離婚を決意。3歳と0歳の息子を連れて実家に戻り、実母の協力のもと、正社員としてフルで働きながら子どもを育ててきた。幼少期から問題行動の多い長男に、発達障害があるとわかったのは小学3年の時。医師から「不登校か、ひきこもりになる」可能性を告げられた尚美さんは、その「呪い」を払うべく、療育に力を注ぎ、学校と常に連携を取り、長男を必死になって守ってきた(前編)。しかし、その間、次男はといえば……。

「母が病で施設に入り、次男が小4、長男が中1の時に3人暮らしになりました。安心して働くためにも、次男には学童に行ってほしいと言ったのですが、ガンとして聞かない。放課後はいつも一人で家にいて、好きなゲームばかりで殻に閉じこもるようになってしまい……。そんな次男に対して、何もサポートができませんでした」

おとなしく怖ろしいほど頑なな性格

幼い頃から多動で、激しい問題行動を起こす長男と違い、次男はおとなしい子だった。しかし時折、違和感を抱くことがあった。

「長男をラグビーチームに入れた時、次男も幼稚園のチームに入れたんです。試合の時、『出ろ』とコーチに言われても、次男は『嫌だ』って、体育座りをして絶対に動かない。威勢のいいお母さんに怒鳴られても泣きもせず、じーっと座っている。この頑固さが怖い、と。おとなしい子なのになんで? って思いました」

言葉が早かった次男は会話が通じるものの、自分の中に何かこだわりがあり、それ以外のことをしようとすると強い抵抗が生じることを、尚美さんはうっすらと感じていた。

それでも長男と違い、次男は学校で問題を起こすことはなく、塾に行かなくとも学校の勉強はそつなくこなし、ある意味、教員の目が“行き届きにくい子”でもあった。

「一人で家にいるのは良くないと思い、週1でそろばんに行かせたり、サッカーもまあまあ気に入ってたので、やらせたりしていたんです。ちょっとでも、外とのつながりを持つようにと。小6の時に気づいたのは、サッカーに行ってなかったこと。練習着がいつも洗濯に出されてたので、サッカーをしているとばかり思ってたんです。私としたら、汚れてない練習着を気づかずに洗っていた」

尚美さんは、自分を責めるように苦しそうに言葉を継ぐ。

「日中フルで仕事をして、買ってきた惣菜を温めて出すだけでも大変で、掃除も洗濯もしないといけないし、それだけでいっぱいいっぱい。手と目が足りていなかった。ちゃんと、子どものことを見ていなかったんです。私はただ、洗濯機を回していただけ」

もっと早く、気づかないといけなかったのに――。そう、何度も繰り返す尚美さん。長男にばかり目が行き、次男の持つ「他の子と違った面」になぜ、気づかなかったのか、今もそのことを悔やみ続けている。